Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『トータル・リコール』(レン・ワイズマン)

トータル・リコール』 TOTAL RECALL


 監督/レン・ワイズマン
 脚本/カート・ウィマー、マーク・ボンバック
 撮影/ポール・キャメロン
 音楽/ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
 出演/コリン・ファレルジェシカ・ビールケイト・ベッキンセイルビル・ナイ
 (2012年・118分・アメリカ)


 レン・ワイズマン監督トータル・リコール見る。フィリップ・K・ディックの短編小説『追憶売ります』2度目の映画化。前回(1990年)は監督がポール・ヴァーホーヴェン大将、主演がアーノルド・シュワルツェネッガーという「俺が俺で何が悪い!」と怒鳴られそうなコンビだったので、「どこがディックやねん!」という仕上がりであった。びっくりショーとしては十分に面白かったけど。


 ロボット工場で働くクエイド(コリン・ファレル)は、単調な毎日に嫌気が差し、人口記憶を植え付けるアトラクションが売り物のリコール社を訪ねる。スパイとして活躍する記憶を植え付けようとした時、警官隊が突入してきた。乱闘の末リコール社を脱出したクエイドだったが・・・。


 偽の記憶を植え付けられた主人公が本来の記憶を取り戻すべく戦いを繰り広げるというお話で、ヴァーホーヴェン版をベースにしたアクション主体のリメイクとなっている。またしても存在不安の要素などこれっぽっちも無くて、「どこがディックやねん!」言いたくなるような代物であった。つくづく頓挫したデヴィッド・クローネンバーグ版『トータル・リコール』を見てみたかったなあと思う。


 ディック風味は薄いけれど、これはこれで楽しかった。検問を突破する場面の太ったおばさん、エレベーターによる腕切断、キャットファイト等々ヴァーホーヴェン版への目配せがそこかしこに盛り込んである。『トータル・リコール』だけでなく、主人公の住む界隈の映像が『ブレードランナー』風(常に雨降りで雑多なアジアンテイスト満載の路地裏)だったり、エアカーでのチェイスはやはりディック原作の『マイノリティ・リポート』風だったり、様々なSF映画の継ぎはぎみたいな感じ。主人公がピアノを爪弾く場面なんかも『ブレードランナー』からだろうね。脚本には『リベリオン』(ガン・カタ!)のカート・ウィマーが参加しており、オタク2人してワイワイ言いながら楽しんで作ったのだろうなあと思う。そんなこんなで深味も新鮮味もないけれど、親しみの持てる映画ではある。


 主演は『マイノリティ・リポート』にも出ていたコリン・ファレル。やんちゃ坊主みたいな風貌はあまりSFっぽい世界観の映像にはそぐわない気がするなあ。ヴァーホーヴェン版でシャロン・ストーンが演じた妻役はケイト・ベッキンセイルレジスタンスの闘士はジェシカ・ビール。片や『アンダーワールド』、片や『ブレイド3』でジャンル映画の戦うヒロイン役は経験済み。この2人の奮闘ぶりで本作は大分面白さが増したと思う。コリン・ファレルケイト・ベッキンセイルに延々と追い回される場面は、女遊びがバレた夫が怒り狂った妻に追いかけ回されてるようにも見えて抱腹絶倒の見せ場であった。


 そう言えば、寺沢武一先生によるコミック『コブラ』の第一話は『追憶売ります』の引用(というか丸パクリ)であった。勿論『コブラ』の方が、スケール感もヴィジュアル面の衝撃も今回の映画なんか比べものにならないくらい凄いものであった。そんな馬鹿なとおっしゃる方は、速攻チェックしてみて下さい。


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