Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『コックファイター』(モンテ・ヘルマン)

コックファイター [DVD]

コックファイター [DVD]


『コックファイター』 COCKFIGHTER


 監督/モンテ・ヘルマン
 製作/ロジャー・コーマン
 脚本/チャールズ・ウィルフォード
 撮影/ネストール・アルメンドロス
 音楽/マイケル・フランクス
 出演/ウォーレン・オーツハリー・ディーン・スタントン、ローリー・バード、トロイ・ドナヒュー、パトリシア・ピアシー
 (1974年・84分・アメリカ)


 モンテ・ヘルマンのミニ特集、『コックファイター』(1974年)について。日本劇場未公開。現在は日本版DVDがキングレコードよりリリースされている。


 題名の通り、本作の題材は闘鶏である。原作・脚本はミステリ作家のチャールズ・ウィルフォード。製作のロジャー・コーマンは、当時全米各地で禁止されていた闘鶏を題材にすることでヒットが見込めるだろうと映画化を企画したという。しかし、興行的には大失敗。コーマンはタイトルを『BORN TO KILL』に変え、別の映画から借用したトラックの疾走と銃撃シーンを入れた予告編を作り、本編には主人公の夢のシーンとしてその場面を勝手に編集して再公開した。この一件が原因でヘルマンとコーマンは袂を分かつことになった。その後『WILD DRIFTER』『GAMBLIN’ MAN』と何度もタイトルを変えて公開されたが、それでも製作費を回収できず、コーマンがプロデュースした数少ない赤字作品となったという。


 『コックファイター』は、闘鶏をしながら旅を続ける主人公フランク(ウォーレン・オーツ)の姿を淡々と、時にユーモラスに綴ってゆく。自分は字幕無しの輸入版DVDで鑑賞したので、細かいニュアンスはわからない部分もあったのだが、ほとんど問題はなかった。と言うのも、モノローグを除くとフランクにはほとんど台詞が無いのだ。試合に負けたフランクは、ライヴァル(ハリー・ディーン・スタントン)から「飲み過ぎるな、喋り過ぎるな」と忠告を受ける。優勝するまで一言も喋らないと決めたフランクは、何をするにもパントマイム状態なのだ。人懐っこいオーツの魅力が満開になっていて、彼の演技を見ているだけで楽しい映画である。


 試合前の駆け引きや、脚に鉤爪を仕込むといった(かなり血生臭い)闘鶏のディテールが詳細に描かれていて、動物愛護協会が騒ぎそうな場面も多数ある。観客たちを捉えたショットはドキュメンタリーを見るような臨場感だ。DVDの解説によると、ヘルマン自身は闘鶏を嫌っていて、闘鶏の試合は編集としてクレジットされているルイス・ティーグが代わりに監督したという。(ティーグは後に『アルゲーター』『クジョー』といった動物パニックものを監督することになる)


 撮影はトリュフォー作品やロメール作品で知られる名手ネストール・アルメンドロス。これがアメリカでの初作品だという。自然光を生かした繊細な撮影が見事だ。アルメンドロスは、その後も『天国の日々』や『プレイス・イン・ザ・ハート』でアメリカの田舎の風景を美しく捉えている。


 映画の始まりこそコーマンが製作した数多くのカーチェイスもの(アメリカの田舎が舞台で、ピーター・フォンダが主演してそうな)に共通する長閑な雰囲気が感じられるけれど、本編は全く肌触りが違う。そもそもヘルマンはコーマンに見出されて映画界に入ったのに、『銃撃』から『コックファイター』に至るまで一度もコーマンが期待するような映画を撮り上げていないことに驚かされる。ヘルマンの異才というか、極端なマイペースぶりがうかがえるではないか。本作のラストシーンなんてもう笑っていいんだか何だか・・・。オーツの泣き笑いみたいな表情が忘れられない。