Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『チャイナ9、リバティ37』(モンテ・ヘルマン)


『チャイナ9、リバティ37』 China 9, Liberty 37


 監督/モンテ・ヘルマン
 脚本/ジェリー・ハーヴェイ、ダグラス・ヴェンチュレッリ
 撮影/ジュゼッペ・ロトゥンノ
 音楽/ピノ・ドナジオ
 出演/ウォーレン・オーツジェニー・アガター、ファビオ・テスティ、サム・ペキンパー
 (1978年・102分・イタリア)


 モンテ・ヘルマンのミニ特集、マカロニウエスタン(!)『チャイナ9、リバティ37』(1978年)について。アメリカ人監督でマカロニというのも妙な話だが、『断絶』『コックファイター』の興行的失敗の後、イタリア人プロデューサーの元で製作されたのが本作だ。ヘルマンとマカロニと言えば、『荒野の用心棒』がアメリカでTV放送された時に、主人公の背景を説明する撮り足し部分を演出したのがヘルマンであった(ハリー・ディーン・スタントンが出演しており、現在は『荒野の用心棒』DVDのボーナス映像で見ることが出来る)。西部劇というジャンルに異化作用をもたらしてきたヘルマンの作風もあるいはマカロニ的と言えるかもしれない。


 奇妙なタイトルは映画の冒頭に出てくる道標に記された文字だ。中国人街まで9マイル、リバティー(街の名)まで37マイル。これは英語版タイトルで、原題は"Amore, piombo e furore"(「愛、銃弾、狂気」)というもの。


 捕らえられ絞首刑を待つガンマン、クレイトン(ファビオ・テスティ)は、鉄道会社からある取引を持ちかけられる。それはクレイトンを放免する代わりに、立ち退きに応じない頑固な農夫マシュー(ウォーレン・オーツ)を殺害して欲しいというものだった。クレイトンはしぶしぶ農場に向かうが、刺客の来訪を予期していたマシューに銃を取り上げられてしまった。マシューの好意でそのまま農場に居残り働き始めるクレイトンであったが、若妻キャサリンジェニー・アガター!)と不倫関係に陥ってしまった・・・。


 78年といえば、もはやマカロニブームは終焉を迎え、カンフー映画やパニック映画に取って代わられた頃。一時代を築いたジャンルの映画として勢いを感じさせるものではない。ウエスタンらしい殴り合いや銃撃戦の見せ場、ラブシーンなども盛り込まれ、初期の『銃撃』『旋風の中に馬を進めろ』に比べると娯楽色は強い方であろう。とは言えアクションよりもキャラクター主体の内容となっており、初老の男とその若妻、そこに現れた前科者の微妙な人間関係を描き、地味ながら味わい深い映画に仕上がっている。


 夫を演じるのは常連ウォーレン・オーツ、若妻はジェニー・アガター、前科者はファビオ・テスティ。何とサム・ペキンパーが脇役出演のおまけつき。米・伊・英混合キャストがいかにもマカロニらしいところだ。音楽はブライアン・デ・パルマ作品で御馴染みのピノ・ドナジオ。ピノ・ドナジオが手掛けたウエスタンというのも珍しい。


 本作は日本劇場未公開。船橋にあった輸入屋「アニマル・ファーム」で、西部劇を何本か収録したセットものにひっそりと入っていたのを発見して購入した。DVDの画質は劣悪、ジェニー・アガターのラブシーンや入浴シーンがカットされた92分のバージョンで、もちろん字幕無しだけど、見れただけで感激であった。是非ともクリアな映像の完全版(102分)で日本版DVDを発売して欲しい。70年代映画へのこだわりを見せるキングレコードあたりの英断に期待したいところだ。ジェニー・アガターの入浴シーンが見たいから・・・だけではないですよ、もちろん。


 本作はヘルマンの父親に捧げられている。ヘルマン本『悪魔を憐れむ詩』によると、クレイトンにはギャンブラーだった父親に似たところがあるのだという。