前回の続きです。今年見た映画で、まだブログに記載していなかったものについて、簡単に感想を書き記しておきます。
『パシフィック・リム』(ギレルモ・デル・トロ) 2013年 アメリカ
ギレルモ・デル・トロ監督は内戦下のスペインを舞台にした『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』で、戦乱に巻き込まれた子どもたちの悲劇をホラー/ファンタジーのスタイルで巧みに描いていました。それらの繊細な雰囲気から一転して、本作では稚気に溢れた演出で巨大ロボットと怪獣のバトルを大画面いっぱいに展開させています。物語はまるでTVアニメ『パシフィック・リム』のダイジェスト版といったところで、細かい設定やドラマ描写はかなり大雑把に端折られています。デカい怪獣が街を破壊する、ゴッツいロボットが怪獣と殴り合う、もう全編がほとんどそれだけと言ってもいいくらいの徹底ぶりには感心させられました。見ているこちらも「スゲー!」とか「カッコいい!」とかコドモ帰りした歓声を送るばかり。これでいいのですよ。デル・トロ監督の『ヘルボーイ』シリーズでタイトルロールを演じている怪優ロン・パールマンが美味しい役で場面をさらうのも見所です。
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花輪和一が銃砲刀剣類不法所持で服役した実話を描いたエッセイ風コミックの映画化。刑務所映画といえば、つい後ろの穴を狙われるおっかない雰囲気を想像してしまうけど、本作では三食寝床仕事付の長閑な雰囲気。食事や入浴、労務(時には映画鑑賞も)といった刑務所の生活が淡々としたタッチで描かれています。これがリアルな刑務所描写ならば、確かに出たくないと思う奴が居ても不思議じゃないと思いますね。
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『RIVER』 (廣木隆一) 2011年 日本
秋葉原で起きた無差別殺傷事件と東日本大震災は、言うまでもなく平成日本の価値観を揺るがした大事件です。今後繰り返し繰り返し映画や文学等の創作で採り上げられるであろうこの二つの事件を、本作はかなり素早いタイミングで扱っています。無差別殺傷事件で恋人を失ったヒロインが秋葉原の街を彷徨い歩き、震災で故郷を失った青年と出会う・・・というお話で、残念ながら学生の撮った自主映画みたいな浅あああい代物でありました。名作『800 TWO LAP RUNNERS』『ヴァイブレータ』の廣木隆一にしてこれはないだろうと。とっても真面目な映画なんだけど、被災地の実写映像と拮抗できる何ものも描けていないのでは、映画としてやはり失敗であろうと思います。
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『ボーン・レガシー』(トニー・ギルロイ) 2012年 アメリカ
ロバート・ラドラム原作・マット・デイモン主演の人気スパイ・アクション「ジェイソン・ボーン」シリーズの番外編。政府の暗殺者養成プログラムを巡るお話はシリーズの経緯を踏まえた内容なので、単品として見るにはちょっとキツいものがありました。全体にヴィデオスルーの未公開アクション映画みたいな印象で、小ぢんまりし過ぎていて物足りなかったなあ。クライマックスの見せ場(アジアの雑踏を舞台にしたバイク・チェイス)も『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』の縮小版のようだったし。主演は『ハート・ロッカー』の好漢ジェレミー・レナー、敵役はエドワード・ノートン、ヒロインはレイチェル・ワイズ、脇にアルバート・フィニー、スコット・グレン、ステイシー・キーチと俳優はなかなか面白い顔ぶれでありました。
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『テッド』(セス・マクファーレン) 2012年 アメリカ
孤独な少年の祈りによって人格を持ったテディ・ベア。やがて少年は冴えない中年男になり、年齢を重ねたテディ・ベアもまたろくでもない中年熊になっていた・・・というコメディ。全編に渡って描写がとにかく下品で、基本大人向け。主人公とテッドが嬉々として『フラッシュ・ゴードン』(彼らのフェイバリット・ムービーなのだ)を見ている姿など、中年オタクとしてはちょっと身につまされるところもありました。本作から得られる教訓は「オタクと付き合うと、漏れなくオタク仲間がついてくる」でしょうか。本作をヒロイン側から見ると違った面白さがあるような気がします。オタクにしてみれば女の子と付き合うよりもオタク仲間とダベってる方が断然楽だし面白い訳で、あなたはそんな男とどう付き合いますか、オタク仲間こみで相手を愛せますか?・・・という。主演は『ブギー・ナイツ』以来、メジャー、マイナー関わらず多彩な映画に出演しているマーク・ウォールバーグ。本作でも馬鹿馬鹿しい役柄を大真面目に演じて笑わせる。彼は何演ってもいいなあ。
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『ジャンゴ 繋がれざる者』(クエンティン・タランティーノ) 2012年 アメリカ
タランティーノがマカロニウエスタンの意匠を借りて、アメリカ南部の恥部(奴隷制度)を描く意欲作。タランティーノ曰く西部劇ならぬ「南部劇」。主人公ジャンゴを黒人に設定する事で、70年代ブラックスプロイテーションのスピリッツも導入されています。70年代ブラックスプロイテーションにおける悪役は勿論白人ですが、同時に最も憎むべき敵として描かれるのは悪い同胞(私欲の為白人に手を貸す黒人)でありました。本作のサミュエル・L・ジャクソンは正にそういった役どころ。
冒頭に流れるのはオリジナル・ジャンゴこと『続・荒野の用心棒』のテーマ曲(ただし英語バージョン)。劇中もモリコーネを中心にマカロニの既製曲がバンバン使われています。音楽のみならず殺しに次ぐ殺しの見せ場、フランコ・ネロのゲスト出演、とこれは正にタランティーノがマカロニウエスタンにオマージュを捧げた一作です。マカロニウエスタン好きとしては前情報を聞いた時から大注目だった訳ですが、実際見てみるとこれが全然マカロニっぽくないのですね。映像の肌触りみたいなものが全然違う。『グラインドハウス/デス・プルーフ』のタランティーノをもってすればマカロニウエスタンの完全再現も可能だったと思われますが、タランティーノ自身『キル・ビル』の頃とは映画作りの姿勢自体が違ってきているのだろうと思います。思うに、愛するジャンル映画の再現という方向性は『グラインドハウス/デス・プルーフ』で一区切り付けて、ジャンル映画ならではのスタイルを活用して何を語れるか(映画で何が出来るのか)を模索しているのではないでしょうか。前作『イングロリアス・バスターズ』にもそんな印象を受けました。
タランティーノの映画には毎回「身分を偽った侵入者が正体を暴かれそうになる場面」「銃を突きつけられて会話を交わす場面」が出て来ます。個人的には、そういった場面で繰り広げられる緊張感溢れる問答こそがタランティーノの最も得意とするところではないかと思います。なので本作で最もタランティーノらしい部分は、妻を救うべく奴隷商人を装って農場に入り込んだ主人公たちが、農場主と食卓を囲む場面であろうと思います。
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