新宿武蔵野館で上映された「エンニオ・モリコーネ特選上映」(『ラ・カリファ』『死刑台のメロディ』)を見て感激したので、5月はモリコーネが音楽を手掛けた作品を集中的に鑑賞した。未見のものを中心に30本ほど鑑賞して改めてモリコーネの幅広い仕事ぶりに驚くとともに、いろいろと新たな発見があった。という訳で、しばらくモリコーネ月間の振り返りをしていきます。
エンニオ・モリコーネといえばセルジオ・レオーネ、ジュゼッペ・トルナトーレとのコンビ作が有名。しかし一番多くコンビを組んだのはイタリアのマウロ・ボロニーニ監督で、14本もあるのだという。全くノーチェックの監督だったので調べてみたら、代表作は『汚れなき抱擁』(1960年)、『ビアンカ』(1961年)、『椿姫』(1981年)等と全く馴染みのない作品ばかり。今回は『わが青春のフロレンス』『薔薇の貴婦人』『金曜日の別荘で』の3本をチェックしてみた。
『わが青春のフロレンス』(1970年)
亡き父の生き方を反復するように労働闘争にのめり込む青年(マッシモ・ラニエリ)と女たちの関係を描く社会派メロドラマ。先に見た『ラ・カリファ』同様、社会派の背景はありつつ、基本は主人公の色恋沙汰がメインのメロドラマだ。イタリア映画にはこういうジャンルが根強くあるのだな。生真面目な文芸映画タッチをモリコーネの音楽が格調高く盛り上げる。刑務所を出た主人公を妻子が出迎えるラストにはドラマティックな(ドラマティック過ぎる)モリコーネ節が高らかに鳴り響いて、いささか気恥ずかしかった。
出演マッシモ・ラニエリ、オッタヴィア・ピッコロ、フランク・ウォルフ、ティナ・オーモン、ルチア・ボゼー。 主人公の浮気相手となる臨時を演じているのは『影なき淫獣』等ジャッロでお馴染みのティナ・オーモン。オーモンはマウロ・ボロニーニの『哀しみの伯爵夫人』にも出演しているようだ。
『薔薇の貴婦人』(1984年)
16世紀のヴェネチアを舞台に、金髪のハンサムな旅行者を巡って未亡人(ラウラ・アントネッリ)と人妻(モニカ・ゲリトーレ)が争奪戦を繰り広げる艶笑コメディ。馬鹿馬鹿しいけど意外に楽しかった。青年をベッドに誘い込もうと悶々とする未亡人をアントネッリが妙演。モリコーネの曲は画面を盛り上げるというより、音楽がもうすでに欲情してるような色っぽさ。ラブシーンには『ペイネ 愛の世界旅行』を思わせる美しい曲が流れる。ってかアレンジは違えど流用じゃないかあれは。
『金曜日の別荘で』(1991年)
夫(ジュリアン・サンズ)と契約を交わし、週末毎に愛人(チェッキー・カリョ)と逢瀬を重ねる奔放な妻(ジョアンナ・パクラ)を描く。原作はゴダール『軽蔑』、ベルトルッチ『暗殺の森』でも知られるアルベルト・モラヴィア。原作未読につき再現度は不明だが、夫婦の交わす議論も身につまされるような痛みや怖さは感じられず映画は所詮「雰囲気モノ」って感じだったなあ。風光明媚なロケーションと相まってムードはたっぷりなんで、モリコーネの音楽のためのイメージ映像だと思えばそれなりに楽しめる(かな?)。
モリコーネはこういったジャンル(文芸エロス)も多数手がけているけど、興味の対象外だったのでこれまでほとんど見たことがなかった。このジャンルでは何と言っても『エーゲ海に捧ぐ』 を見てみたい。モリコーネによるテーマ曲は、エロティック・モリコーネを代表する目眩がするような名曲だ。