Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

映画感想その1(ホラー映画編)

 最近見た映画、または、だいぶ前に見たけど感想を書きそびれていた映画について、ここらでまとめて感想を書き記しておきます。今回はホラー映画編。

 

 

『血を吸う』三部作(山本迪夫)

 東宝の山本迪夫監督による和製吸血鬼映画『血を吸う』三部作。

 一作目『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』(1970年)。出演松尾嘉代中尾彬中村敦夫南風洋子、小林夕岐子ほか。日本で怪奇映画を作るに当たっての試作品、といった感じの小ぢんまりとした映画であった。郊外にひっそりと建つ洋館、裏庭の墓地、となかなかムードは出ていたように思います。中尾彬中村敦夫といった男優のバタ臭い顔つきも良い。

 二作目『呪いの館 血を吸う眼』(1971年)。出演藤田みどり江美早苗高橋長英岸田森ほか。いよいよ岸田森演じる吸血鬼が登場。少女時代に吸血鬼に遭遇したヒロインのトラウマが次第に解明されていくお話と、姉妹の確執を絡めた展開がなかなか良い。脇役の高品格高橋長英の顔つきにこのジャンルにそぐわない違和感を感じました。岸田森はさすがの風格で堂々たる吸血鬼姿を見せるが、最後がちょっとあっけないかな。

 三作目『血を吸う薔薇』(1974年)。出演黒沢年男岸田森田中邦衛、望月真理子、太田美緒ほか。全寮制の女子高を岸田吸血鬼が襲う。映画としては一番良く出来ていると思いました。しかし、ここでも脇役の田中邦衛の存在がこのジャンルにそぐわない違和感を醸し出していました。俳優・美術・映像・音楽と隅から隅まで「怪奇映画」という統一感をもって仕上げるというのはやはり当時の(今でも?)邦画ではかなりハードルが高かったのだろうと思います。後年このお題に果敢に挑戦したのが黒沢清スウィートホーム』ですが、現在諸事情により見ることが叶わないのが残念。いつかまたこのお題に挑戦する猛者は現れるだろうか。

 

 

 

『吸血こうもり/ナイトウィング』(アーサー・ヒラー) 1979年

 『ある愛の詩』『ホスピタル』のアーサー・ヒラー監督によるアニマルホラー。出演ニック・マンキューゾ、デヴィッド・ワーナー、キャスリン・ハロルド、スティーブン・マクト、ストローザー・マーティンほか。ネイティブアメリカンの伝承と荒野の洞窟に住む吸血こうもりの襲撃を描く。1979年という制作年を考えると地味この上ない作品で、ショックシーンの見せ場も少ないが、ロケーションと雰囲気描写が巧みで最後まで見せます。

 

 

 

『家』(ダン・カーティス) 1976年  

 ニューイングランドの田舎町に貸別荘を借りた一家を怪現象が襲う。出演カレン・ブラック、オリヴァー・リード、バージェス・メレディス、アイリーン・ヘッカート、ベティ・デイヴィスほか。子供の頃TVの吹替洋画劇場で見て怖かったような記憶があって、改めて見直してみたら、どうも見せ場のいくつかは『悪魔の棲む家』(スチュアート・ローゼンバーグ)と混同していたことに気がつきました。カレン・ブラック、オリヴァー・リード、ベティ・デイビス、バージェス・メレディスら名優の顔芸はたっぷり堪能できますが、肝心のホラー映画らしい映像の見せ場には乏しいなと。

 

 

 

プロフェシー/恐怖の予言』(ジョン・フランケンハイマー) 1979年 

 ジョン・フランケンハイマー監督の悪名高い一作。出演タリア・シャイア、ロバート・フォックスワース、アーマンド・アサンテ、リチャード・ダイサートほか。工場排水の汚染で生まれた怪物が人々を襲う。フランケンハイマーとしては、60年代の充実しきった作品群と比べると同じ監督とは思えない出来の悪さでした。環境問題の雑な扱い、怪物(赤剥けた熊)が暴れまわる見せ場もユルくて、ここから後年の珍品『D.N.A.』までまっしぐらな感じ。後期作品でも『最後のサムライ/ザ・チャレンジ』(1982年)や『RONIN』(1998年)等はヘンな部分は見受けられますが見応えはあり、腐ってもフランケンハイマーと言う感じでした。やはりホラー映画は門外漢であり、アクション映画の人だったのだなと思います。

 

 

 

『ドクター・スリープ』(マイク・フラナガン) 2019年

 スティーヴン・キング原作、かの名作『シャイニング』の続編。出演ユアン・マクレガーレベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン、クリフ・カーティスほか。お話は面白いけど、どうも演出、映像が軽いという印象で、残念な仕上がりでした。キングが嫌った映画版の続編になっていて、作り手はキングとキューブリックの折衷案を目論んだのかなと思われます。にしては、クライマックスであるホテルの映像が貧弱な印象でした。キューブリック版はもっと広々としたホテルだったような。ジャック・ニコルソンのそっくりさんも厳しい。この世を去った主要人物の残留思念が、生き残った者を助ける描写はキングっぽいなあと思いました。

 

 

 

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(アンディ・ムスキエティ) 2019年

 スティーヴン・キングの大傑作『IT』映画化の後編。同監督による前編(子供篇)が非常に好印象だったので、後編も期待して劇場に足を運びました。前作から27年後、大人になったルーザーズクラブのメンバーが再び集結し、故郷の街に巣食う邪悪の化身と対決する。メジャー作品としてはやむを得ないのかもしれませんが、お化け屋敷的な見せ場に終始している印象で、いささか軽い。仲間たちが中華料理店で再会する辺りから、恐怖のバラエティーショー的な演出に舵を切ったように見えました。登場人物たちが自らのトラウマと向き合い仲間たちの力を借りながら克服してゆくキングならではのドラマ性はかなり薄められていて、原作の感動には遠く及ばないのが残念です。ジェームズ・マカヴォイジェシカ・チャステイン、ジェイ・ライアン、ビル・ヘイダー、イザイア・ムスタファ、ジェームズ・ランソンら俳優たちは皆良かったと思います。前編で不満だったのが、邪悪なピエロ「ペニーワイズ」が弱すぎるということでした。後編でもあれこれ変身してフル稼働で頑張ってたけど、心底恐ろしいものと遭遇したというような不気味さはあんまり感じられなかったなあ。

 

 

 

『ヘレディタリー/継承』 (アリ・アスター) 2018年

 新鋭アリ・アスター監督の意欲作。これは久々に見ごたえのあるホラー映画でした。家族の確執を描いた嫌ああああな話とオカルト風味、工夫を凝らしたショック描写を堪能。ホラー映画慣れしている目から見ても思わずのけぞるようなショック場面がいくつかありました。超常現象の予兆として光が走る描写も良かったなあ。あまりに嫌な話なんで、オカルトへ着地する結末は(現実味がないので)バッドエンディングにもかかわらずちょっとホッとしたくらい。出演トニ・コレット、アレックス・ウォルフ、ミリー・シャピロ、アン・ダウド、ガブリエル・バーンほか。

 

 

 

『来る』(中島哲也) 2018年

 映画の前半は中島哲也監督らしいクドい描写の連続、怖いというより不愉快な描写が延々と続き辟易とさせられます。オカルト映画らしさが増す後半は面白かったけど(お祓いの仰々しい演出)、結局監督の志向している怖さというのは理解不可能な何者かの怖さではなく人間関係のこじれの方にあるように見受けられました。出演岡田准一妻夫木聡黒木華小松菜奈松たか子青木崇高柴田理恵ほか。霊能力者を演じる小松菜奈松たか子柴田理恵の3人はとても良かった。

 

 

霊的ボリシェヴィキ』『彼方より』(高橋洋

 高橋洋監督作品を見ると、脚本家・高橋洋の抱く妄想力の大きさ・深さに比べて、演出家としてはそれを表現し切れていないというもどかしさを感じていました。『霊的ボリシェヴィキ』(2017年)は低予算、限定空間の設定が上手く作用していて、実に面白い仕上がり。高橋脚本に幾度となく登場する、足の不自由なおっかない女性が本作でも登場(演じるは長宗我部陽子)。「一番怖いのは人間だ」というありがちな言説を真っ向から否定してみせるのが頼もしい。出演韓英恵、巴山祐樹、長宗我部陽子、高木公佑、近藤笑菜ほか。

 コロナ禍で作られたいわゆるリモート撮影の『彼方より』(2020年)は19分の短編。高橋洋が監督・脚本・撮影・整音でクレジットされた完全自主映画体制なので、かなりハードコアな仕上がり。これまた限定空間が功を奏して、リモート会議の外で何か恐ろしいことが起きていることを想像させる演出が上手い。突如モリコーネ作曲「リーガンのテーマ」(『エクソシスト2』)が引用される場面には鳥肌が立ちました。出演河野知美、園部貴一、大田恵里圭。

 

 

 

 

ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(アレックス・カーツマン) 2017年

 ミイラ男、フランケンシュタイン、透明人間、狼男など、ユニバーサル製作で一世を風靡した怪奇映画の主役たちが一堂に集う「ダークユニバース」シリーズの第1弾、だそうで。それがいきなりトム・クルーズ主演でミイラ男映画、という辺り「大丈夫か?」と思わないでもない。復活するミイラは邪悪な女王というアレンジで、怪奇映画らしい描写が全編に展開。『スペース・バンパイア』みたいに精気を吸われて萎む描写もあったりして。なんだけど、主人公トムがインディ・ジョーンズみたいに派手なアクションを展開する冒険活劇みたいな色が強くて、途中で「これ、一体何の映画?」と訳がわからなくなってきます。最後は色々あってミイラの力を手に入れたトムが闇のヒーローとして活躍するだろうことを匂わせて幕を閉じます。そうか、新しいヒーローの誕生編だったのか、と最後まで見ればトムのキャスティングを含めて納得できないこともないのですが・・・。やっぱり怪奇映画らしい描写と派手なアクションが上手く噛み合っていないのが失敗だったような気がします。出演トム・クルーズアナベル・ウォーリス、ソフィア・ブテラ、ジェイク・ソンソン、ラッセル・クロウほか。

 

 

 

(この項、続く)