Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アリスの恋』(マーティン・スコセッシ)

 

 マーティン・スコセッシ監督『アリスの恋』(1974年)鑑賞。早稲田松竹にてレイトショー。30年ぶり?くらいの再見。もちろん劇場鑑賞は初めて。

 

 主人公は夫を事故で失った中年女性アリス(エレン・バースティン)。結婚で諦めていた歌手になる夢を叶えるため、息子を連れて故郷モンタレーを目指して旅をする。

 

 冒頭は歌手になる夢を宣言するアリスの少女時代(セットを強調した人工的な映像で『オズの魔法使い』みたい)。それが終わると、Mott the Hoopleが流れ住宅街の空撮に切り替わり、カメラは平凡な主婦となった現在のアリスを映し出す。このオープニングの掴みはスコセッシらしいノリの良さ。

 

 妄執に囚われた男のドラマを得意とするスコセッシの作風からすると、女性が主人公の本作は異色の部類だろうが、記憶にある以上に良い映画だった。典型的なアメリカ映画の楽しさに溢れていて実に良かった。家族の絆、旅の感覚、音楽の楽しさ、人々の善意、そしてセカンドチャンスの希望。

 

 主演エレン・バースティンをはじめとした出演者たちも皆生き生きと輝いていた。やかましい息子アルフレッド・ルッター。先輩ウエイトレスのダイアン・ラッド。子役時代のジョディ・フォスター。ゲスな田舎者演じるハーヴェイ・カイテルが当時からもう完璧なカイテルっぷりで笑った。

 

 今回はフィルム上映だった。ワーナーの丸っこいロゴマーク見ただけで、あー無理してでも来て良かったなと感動。フィルムの色褪せ、キズやコマ飛びすら楽しかった。