Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ゴダール・ソシアリスム』(ジャン=リュック・ゴダール)

ゴダール・ソシアリスム』 FILM SOCIALISME


  監督/ジャン=リュック・ゴダール
  撮影/ファブリス・アラーニョ、ポール・グリヴァス
  サウンド/フランソワ・ニュジー、ガブリエル・アフネール
  出演/カトリーヌ・タンヴィエ、マリーヌ・パタジア、ジャン=マルク・ステーレ、アガタ・クーチュール
  (2010年製作/スイス・フランス合作/102分) 


 震災後、2本目の劇場鑑賞はゴダール・ソシアリスム』にトライ。仙台のミニシアター、桜井薬局セントラルホールにて。


 見に行った日(7/10)は、『勝手にしやがれ』(1959年)が併映されていた。自分が劇場に入ったのは『勝手にしやがれ』の終わり頃。ロビーで待っていると、場内から漏れてくる音声で映像がくっきりと思い浮かぶ。学生の頃から何度も何度も見た映画なんで。ゴダールだから?否、ジーン・セバーグ見たさに。


 『勝手にしやがれ』が終わると、劇場からたくさんのお客さんが出てきて驚いた。驚いた、ってのも失礼な話かもしれないが、今だに人気のある映画なんだなあと感心した。客層は多様で、若いカップルもいれば、オールドファンらしい年配の方もいた。こんなに人気があるのなら、最新作にもさぞかしたくさんのお客さんが・・・・と思ったら、自分入れてたったの6人でした。


 さておき、ゴダール80歳の新作『ゴダール・ソシアリスム』。ゴダール社会主義、ってどんな映画なんだよと思えば、映画が始まるとともにいきなり波の映像が炸裂。ああまたやってるよ、というか、何と言うかゴダールの映画であった。以前、ガース柳下ウェイン町山コンビに「ゴダール業を営むゴダールさん」なんて揶揄されていたけど、「ゴダールの映画」としか説明の仕様のない世界。60年代の作品はかろうじて劇映画の体裁が残っていたので、普通に「映画」を見る楽しさが感じられたが、近年の作品は特に映像スタイルが先鋭化するにつれ、「映画を見に行く」というより「ゴダールを見に行く」という感覚である。


 映画は三部構成。第一部は<こんな事ども>。地中海をクルーズする豪華客船に乗り合わせた多国籍の乗客たち(その中には何とパティ・スミスの姿も)。第二部は<どこへ行く、ヨーロッパ>。フランスの片田舎のガソリンスタンドが舞台。スタンドを営む親が地方選挙に立候補を表明し、取材に来たTVクルーや家族とドタバタを繰り広げる。第三部は<われら人類>。第一部に登場した豪華客船の進行と共に、人類の歴史を紐解いていく。エジプト、パレスチナオデッサギリシャナポリバルセロナ・・・。ニュース映像、映画、字幕を巧みにコラージュした『ゴダールの映画史』みたいな映像で描いてゆく。


 今回気になったのは音響効果。ゴダールは音+映像で「ソニマージュ」という造語を作り、それを実践してきた。個々の音が立ち上ってくるような独特の音響効果。それが今回はいつにも増して荒々しい。客船のデッキで撮影された場面ではマイクが強風を拾って雑音が凄いし、客船内のディスコ(?)を映す場面では音がバリバリ割れている。単なる映像の補足としての音響効果を遥かに超えた生々しい音たち。オルタナというかガレージというか、あの音響効果にはとてもインパクトがあった。80歳の老人だよ作ってるの。


 今回、ちょっとした映写トラブルがあった。第二部で、ガソリンスタンドの給油場に佇む女性(長女)が本を読んでいる場面。そこにTVクルーが赤い車でやってきてひと悶着。車が去ると、まるで素人臭いズームで彼女の読んでいた本のアップになると、『幻滅』(バルザック)という題名が見える・・・。そこで画面が暗転した。そこからしばらく黒い画面が続き、音声だけが流れた。しばらくはそういう演出かと思って見ていたが、あまりに長いし、台詞の字幕も出ないので、これは映写トラブルだと思い、席を立った。


 劇場を出て、受付のお姉さんに「画面が途切れてるんですけど」と声を掛けて見てもらった。内心、(ああいう演出だったらどうしよう、ゴダールだし)と思いつつ。そしたらやっぱり映写トラブルだったようで、お詫びのアナウンスがあった。他のお客さんは騒ぐ様子もなかったから、やっぱり「そういう演出だ」と思って見ていたのか、それとも寝ていたのかも。上映が再開されるまで約5分ほど、ちょっとイライラしながら待っていた。上映が再開すると、画面にはいきなりふわふわした毛並みの可愛らしいリャマが登場。のん気な顔でアップになったりして思わず笑いそうになった。これで映写トラブルのイライラを忘れることが出来た。


 さておき、単なる映画鑑賞とは違う、「映画体験」と呼ぶべき体験が出来た。これは劇場ならでこそ。映写トラブルは腹立たしいけれど、ちょっと面白かった。自分の中では『ゴダール・ソシアリスム』=豪華客船・爆音・リャマというイメージが出来あがってしまったが。