Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アニエスの浜辺』(アニエス・ヴァルダ)

アニエスの浜辺 [DVD]



『アニエスの浜辺』 LES PLAGES D'AGNES


 監督・脚本/アニエス・ヴァルダ
 撮影/エレーヌ・ルヴァール、アーレン・ネルソン
 音楽/ジョアンナ・ブルゾヴィッチ、ステファン・ヴィラール
 出演/アニエス・ヴァルダジャック・ドゥミジェーン・バーキン、マチュー・ドゥミ
  (2008年製作・113分・フランス映画)


 ヌーヴェルヴァーグの女性監督アニエス・ヴァルダの自伝的ドキュメンタリー『アニエスの浜辺』見る。


 アニエスが子供時代を過ごしたベルギーの浜辺、戦火を逃れて疎開した南フランスの港町、そしてパリの街。亡き夫ジャック・ドゥミ監督をはじめとするヌーヴェルヴァーグの思い出。家族や友人たち。アニエスや関係者へのインタビュー、アーカイヴ映像、ポップな実験映像等を交えて、アニエスの半生を綴ってゆく。単純なドキュメンタリーというよりは、ユーモラスなシネ・エッセイといった趣向だ。ハリボテの鯨、砂浜に並べられた無数の鏡、フィルムで作った小部屋、等々遊び心に満ちた映像が楽しい。


 個人的にはアニエスの作品には思い入れはないけれど、彼女のパートナーであったジャック・ドゥミ作品が好きなので興味深く見ることが出来た。二人がアメリカに行っていたなんて全く知らなかった。知らなかったといえば、ドゥミの死因。これには驚いたなあ。


 アーカイヴ映像にはジャック・ドゥミゴダールジェーン・バーキンカトリーヌ・ドヌーヴアラン・レネらフランス映画ゆかりの面々の他、アメリカ時代の映像にはジム・マクブライド、ジム・モリソン、ハリソン・フォードなども顔を見せる。ジム・マクブライドは『勝手にしやがれ』の悪名高いリメイク『ブレスレス』の監督。ハリソン・フォードは無名時代にオーディションで会ったことがあるという。ジム・モリソンは、ドアーズのあのジム・モリソン。モリソン(UCLA映画学科出身のシネフィルでもあった)がドゥミの『ロバと王女』の撮影を見学している映像が出てくる。


 ラストシーンは、フィルムで囲まれた小部屋でくつろぐアニエスの姿。カメラマンとして頭角を現した若い頃から、ヌーヴェルヴァーグ初の女性監督としてデビューし、80歳を迎えようという現在まで、常に現役であった自信が感じられる。本作はアニエスの個人史であると同時に、第二次大戦、ヌーヴェルヴァーグ、ヒッピームーブメント、ウーマン・リヴ、労働争議、と映画史・現代史の流れと要所で関わっているのも面白かった。