Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『月と専制君主』(佐野元春)

 友だち関係とはどれくらい続くものなのか。そもそも友だちとは何なのだ。何年かおきに、この問いが頭を悩ませる。


 中学時代からの親しい友人であるタイソン氏が音信不通となって、早2年が過ぎた。自分が仙台に転勤してから5年、その間彼も転職・引越しと転機を迎えていた。最後に会ったのは2008年の夏か。その後メールのやりとりなどはあったが、いつの間にか住所も携帯の番号も変わったようで連絡が取れなくなってしまった。交友関係において非常に細やかな男だったので、今の状況というのは、彼なりに思うところあって敢えてこちらをシャットアウトしているのではないかと想像している。ならば、いずれ機が熟した時に連絡が来て、以前のような友人関係が復活するかもしれない(しないかもしれない)。もしかすると自分が不義理をしていたせいではないか、彼に会いたくないと思わせるような失礼なことをしてしまったのではないか、そう思って辛い気持ちになることもある。そうでないことを祈りつつ、連絡が来ることを期待して待っている。


 話は変わって。佐野元春の近作『月と専制君主聴く。震災前(2月)に買って、封も切らないまま、地震で散乱したCDの山に埋もれてしまい聴くタイミングを逃していた。CDの整理が進む中で発掘したので改めて聴いてみた。昨年2010年にデビュー30周年を迎えた佐野氏のセルフ・カヴァー集である。


月と専制君主(CD+DVD)

月と専制君主(CD+DVD)


収録曲は、
 M1. ジュジュ
 M2. 夏草の誘い
 M3. ヤングブラッズ
 M4. クエスチョンズ
 M5. 彼女が自由に踊るとき
 M6. 月と専制君主
 M7. C'mon
 M8. 日曜の朝の憂鬱
 M9. 君がいなければ
 M10. レインガール


 正直言って、佐野氏の最近の活動はほとんどフォローしていない。90年代前半まではリアルタイムで聴いていたので、このアルバムに収録された曲は幸いほとんど知っていた。オリジナルとはアレンジを一新し、フォーキーだったりソウルだったりラテンだったり、どの曲もとてもリラックスした演奏と歌を聴かせている。ライナーに曰く「2010年の現在においても、僕にとってリアリティーのある曲を選んだ」とのことで、その選曲にしてこのアレンジ、演奏なのだから、自身の歌詞(言葉のソリッドさ)を伝える最良の方法として選び取ったものなのだろうと思う。


 そういった製作意図はともかくとして、モータウン調アレンジのM1『ジュジュ』だけで泣けるものがあったなあ。M3『ヤングブラッズ』の変貌ぶりにも驚いたし、M6『月と専制君主』でルー・リードの『ワイルドサイドを歩け』がまるで自然に引用される辺りにも感動した。


 佐野氏のコンサートには、80年代終盤から90年代初頭にかけて、友人のダイカン氏、タイソン氏とともに何度か通った。初期のバックバンドであったザ・ハートランドのさよなら公演、『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』のツアーなど。


 先日(8/24)、佐野氏の30周年アニバーサリーライヴの模様がBSで放映された。50過ぎとは思えぬパワフルな演奏、日本人離れした独特のトークはとても楽しかった。30年間変わらない、熱いが暑苦しくない氏の個性がフルに発揮されていたと思う。


 番組の冒頭で、会場(東京国際フォーラム)の客入れの様子が映し出された。その中にタイソン氏がいたような気がしてならなかった。見間違いかもしれないけど。


 ダイカン氏、タイソン氏、いつかこのアルバムを肴に一杯やりたいですね。