Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ニッケルオデオン』(ピーター・ボグダノヴィッチ)

ニッケルオデオン [DVD]

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『ニッケルオデオン』 NICKELODEON


 監督/ピーター・ボグダノヴィッチ
 脚本/W・D・リクター、ピーター・ボグダノヴィッチ
 撮影/ラズロ・コヴァックス
 音楽/リチャード・ハザード
 出演/ライアン・オニールバート・レイノルズテイタム・オニール、ブライアン・キース、ステラ・スティーヴンス、ジョン・リッター、ジェーン・ヒッチコック
 (1976年・122分・アメリカ)


 ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ニッケルオデオン』(1976年)見る。


 1910年代、映画創世記のアメリカ。業界を牛耳ろうとする大手映画会社と、独立系の映画会社が生き残りを賭けて争いを繰り広げていた。弁護士のハリガン(ライアン・オニール)はひょんなことから、独立系のキネグラフ社で監督をする羽目に陥る。戸惑いながらも、田舎者のバック(バート・レイノルズ)、踊り子のキャスリン(ジェーン・ヒッチコック)らの出演で映画制作を開始するが・・・。


 70年代には『ラスト・ショー』『ペーパー・ムーン』等、ノスタルジックな作風で人気を博したボグダノヴィッチ監督。映画マニア出身の監督としてはかなり早い時期に成功を収めた一人だと思うが、女優の売り出しに失敗したり、スキャンダル(ボブ・フォッシー『スター80』参照)に巻き込まれたりして、シーンから消え去ってしまった。個人的には、ロジャー・コーマン先生の元で撮ったデビュー作『殺人者はライフルを持っている!(TARGETS)』(1968年)が印象深い。


 タイトルの「ニッケルオデオン」とは、1910年代初頭に隆盛を極めた小規模の映画館の俗称で、入場料の5セント硬貨(ニッケル)とギリシャ語の劇場(オデオン)を合わせた言葉なのだという。『ニッケルオデオン』は映画創世記の映画館の様子や撮影風景を丁寧に描写し、最後はD・W・グリフィスの『國民の創生』の公開で終わる。短編映画が主体だった映画創世記から、やがて本格的な長編劇映画へと移り変わる激動の時代の人間模様をユーモラスに描いており、ボグダノヴィッチのクラシック映画に対する知識や愛情は充分に伝わってくる。


 冒頭の追っかけっこや、ライアン・オニールバート・レイノルズの乱闘など、コミカルな場面ではコマ落しやオーバーなアクションでサイレント喜劇を精一杯再現してみせる。残念ながら演出の呼吸がいまひとつで、楽しいけれど爆笑には至らないというもどかしさが残った。そう言えば同じくボグダノヴィッチの『おかしなおかしな大追跡』(1972年)もそんなもどかしい映画だったような記憶がある。 


 出演はライアン・オニールテイタム・オニールの親子競演。共演はブライアン・キース、バート・レイノルズ、ステラ・スティーヴンスほか。劇中劇でバート・レイノルズがインディアン姿で登場するので、マカロニウエスタン好きとしては、『さすらいのガンマン(ナバホ・ジョー)』を思い出してちょっと嬉しかった。『ブレードランナー』の2人(ブライオン・ジェームズ M・エメット・ウォルシュ)がチョイ役で出ている。