Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『どうせなにもみえない―諏訪敦絵画作品集』

どうせなにもみえない―諏訪敦絵画作品集

どうせなにもみえない―諏訪敦絵画作品集


 画家の諏訪敦氏を知ったのは、たまたま目にした「新日曜美術館」であった。番組では、不慮の事故で亡くなった女性の両親から亡き娘の肖像画を描いて欲しいという依頼を受けた諏訪氏が、絵を仕上げていく様子を捉えていた。このメチャクチャにハードルの高い依頼に対して、試行錯誤を重ねながら様々なアプローチを試みる諏訪氏の真摯な姿勢には感銘を受けた。勿論、出来上がった肖像画も味わい深く素晴らしいものだった。


 諏訪氏についてはその番組で初めて知ったのだけれど、その画風といい仕事ぶりといい、強烈に響くものがあった。彼の仕事をもっと知りたいという強い衝動に駆りたてられた。


 この夏に諏訪市美術館(冗談?)で行なわれた個展には行けなかったが、個展に併せて新しい画集が発売となったので早速購入した。どうせなにもみえない―諏訪敦絵画作品集』諏訪氏の第2画集である。もしかして、生きている画家の画集を購入したのは初めてかもしれないなあ。


 諏訪氏の絵画は写実的なスタイルを基本として、様々な仕掛けが施されている。どの作品も精密な思考と作業を感じさせる丁寧なものばかりだ。諏訪氏の作品を見ていると、どこか自分の志向と共通するものを感じる。モデルの選択にしても構図にしても光線にしても、とてもしっくりと馴染むものを感じるのだ。プロフィールを調べたら諏訪氏は自分と同い年、しかも誕生日も4日しか違わない。北国出身だし。そんなことも何か関係あるのだろうか。昔から個人的なオブセッションとなっている「カメラを構えた女性」の肖像画まであったのには心底驚いた。何だろうなあ。


 本書には、作品だけでなく詳細な解説文と諏訪氏自身の文章が掲載されている。絵画そのものを先入観なしに味わう妨げになりそうなので、敢えてそこは読まずに絵画だけを鑑賞。解説を読むのは後日でよかろうと思う。今後長い付き合いになりそうな予感がするので、じっくりと堪能したい。