Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『エンジェル ウォーズ』(ザック・スナイダー)

エンジェル ウォーズ Blu-ray & DVDセット

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『エンジェル ウォーズ』 SUCKER PUNCH


 監督/ザック・スナイダー
 脚本/ザック・スナイダー、スティーヴ・シブヤ
 撮影/ラリー・フォン
 音楽/タイラー・ベイツ、マリウス・デヴリーズ
 出演/エミリー・ブラウニングアビー・コーニッシュジェナ・マローンヴァネッサ・ハジェンズジェイミー・チャン
 (2011年・110分・アメリカ/カナダ) 


 『ドーン・オブ・ザ・デッド』『ウォッチメン』のザック・スナイダー監督によるアクション大作『エンジェル ウォーズ』。「セーラー服を着た白人娘が日本刀振り回して大立ち回りを演じる」映画だというからもっと愉快なものを想像していたが・・・(以下ネタバレあり)


 遺産を狙う継父の策略で精神病院へと送られてしまった少女(エミリー・ブラウニング)が、4人の仲間たちとともに空想世界で戦いを繰り広げる・・・というお話。


 「物語」を信じる力が現実世界を変えるのだ、というのはテリー・ギリアム監督が繰り返し描いているテーマだ。『バロン』しかり、『ブラザーズ・グリム』しかり、近作『Dr.パルナサスの鏡』しかり。管理社会で主人公が空想世界に逃避して終わる『未来世紀ブラジル』ですら、監督に言わせると「ハッピー・エンド」なのだ。主人公が「物語を信じることによって、幸せを感じる」からだ。


 『エンジェル ウォーズ』では、精神病院に閉じ込められた主人公/売春宿に囚われた主人公/空想世界で戦う主人公、と三つの世界が描かれる。精神病院に入れられた主人公が脱走するべく戦う様子が、売春宿に囚われた主人公が脱走するべく戦う様子として描かれ、さらに空想世界で戦う映像によってショーアップして描かれる。主人公は脱走に失敗するが、仲間の一人が脱出に成功したことで、満足げな表情を浮かべてロボトミー手術を受け入れる。何とも陰惨な話なのだが、映画は主人公の勝利を謳い上げて幕を閉じるのだ。そこにはテリー・ギリアムが繰り返し描いてきたものと同様のテーマが描かれていると思ったのだがどうだろうか。


 『エンジェル ウォーズ』から『未来世紀ブラジル』を連想したのは、空想世界のヴィジュアルにもよる。『未来世紀ブラジル』の主人公(ジョナサン・プライス)は、管理社会で抑圧された味気ない生活を送りながら、夜な夜な夢の中で冒険を繰り広げる。巨大なサムライに囚われた美女を助け、美女と優雅に空を飛ぶ。『エンジェル ウォーズ』では、日本刀を振り回して巨大なサムライと戦い、ドイツ軍のゾンビ兵と戦い、ドラゴンと戦うのだ。日本のアニメーションから多大なインスピレーションを得たと思われるヒロイン・アクションに、西欧のファンタジー要素を混ぜ合わせたようなヴィジュアルは強烈で、映画の大きな見せ場になっている。・・・のだが、個人的にはあの主人公のパーソナリティーと、オタクの願望を具現化したようなあの空想世界の映像がどうしても結び付かなくて、全編違和感を感じ続けながら見続ける事になってしまった。あのような空想世界を欲するのは主人公ではなくて、あなたや私のようなオタクな観客の方であろう。


 いろいろ引っかかるところもあるけれど、台詞の説明を極力排除し映像だけで見せていくスナイダー監督の演出スタイルは好ましいと思う。本作は『未来世紀ブラジル』『パンズ・ラビリンス』と三本立て上映するといいかもだ。


 主人公の空想世界に登場するのがスコット・グレン。さすがに老けたなあと思うが、『怒りの山河』等の若造に始まり、『羊たちの沈黙』の上司を経て、今やお師匠さんである。数々のアクション映画を通じスコット・グレンを見続けてきた者としては、感慨深いものがある。