- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2005/08/27
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『お早よう』
監督/小津安二郎
脚本/小津安二郎、野田高梧
撮影/厚田雄春
音楽/黛敏郎
出演/設楽幸嗣、島津雅彦、杉村春子、沢村貞子、三宅邦子、佐田啓二、久我美子、笠智衆
(1959年製作・94分・日本映画)
久しぶりに小津の『お早よう』(1959年)を再見。もう三度目くらいになるけれど、全く飽きずに見終えてしまった。
昭和30年代前半。TVが欲しいと駄々をこねる兄弟。町内会の会費が無くなったと揉める近所の奥さんたち。定年を前にして職探しをするお父さんたち・・・。そんなご近所の毎日をスケッチ風に描いた群像劇。特に大きな事件は何も起きない映画なんだけれど、これがとっても面白い。いわゆる最近の「淡々系」というか、外した間で笑いを取ろうという演出とは全く違う。子供たちの顔つき、近所の奥さんたちの駆け引き、お父さんたちの疲れ具合、土手、家並み、等々、隅から隅まで生き生きとして自然なのだ。小津の仔細な人間観察、さりげなくも丹念な描写の見事さには舌を巻く。
出演は佐田啓二、久我美子、笠智衆ほか。小津映画の常連に混じって殿山泰司や大泉滉が出てたりするので気が抜けない。三好栄子演じるおばあさんの太々しい存在感と吐き散らす毒が凄い。
TVの購入を巡って主人公兄弟が起こすストライキの顛末は抱腹絶倒の面白さ。父親(笠智衆)に「無駄口を叩くな」と叱られた兄(設楽幸嗣)が「大人だって無駄な言葉を喋るじゃないか」と「挨拶」の不要さを訴える場面が面白い。子供ならではの屁理屈を通じて、大人と子供の価値観、視野の違いを分かりやすく描いている。終盤で佐田啓二と久我美子が駅で「よいお天気ですね」など挨拶を交わしながらとぎこちなく接近する様子を描いて、やっぱり挨拶って必要だよねと思わせるのも上手い。何しろ題名が『お早よう』ってくらいだから、挨拶もまた本作の重要なテーマなのだ。
個人的には、『お早よう』最大の見どころは、弟の勇(島津雅彦)だと思う。勇の一挙一動があまりに面白くて、目が離せなかった。唐突にフラフープを始める場面など爆笑してしまった。兄弟でじゃれあう様子も好きだなあ。勇を見るだけでも、本作を見る価値はあると断言しよう。
『お早よう』のもうひとつのテーマ、それは「おなら」である。子供たちの間で額をスイッチのように押すとおならをするという遊びが流行っているという設定。全編に渡って大人も子供もプープーやってる。「世界が認める巨匠・小津」の映画だと思って肩肘張って見ると脱力するのは必至。それにしても、物干しにはためくパンツでエンドマークを迎える映画っていったい・・・。