『エッセンシャル・キリング』 ESSENTIAL KILLING
監督/イエジー・スコリモフスキ
脚本/イエジー・スコリモフスキ、エヴァ・ピャスコフスカ
撮影/アダム・シコラ
音楽/パヴェウ・ミキーティン
出演/ヴィンセント・ギャロ、エマニュエル・セニエ、ザック・コーエン
(2010年・83分・ポーランド/ノルウェー/アイルランド/ハンガリー)
という訳で、行って参りましたスコモリフスキの新作『エッセンシャル・キリング』。ポーランドのカルト監督が撮った異色のアクション映画である。
米兵を殺害し捕らえられたアラブ人テロリスト(ヴィンセント・ギャロ)が主人公。移送中に事故が起こり、護送車から放り出された男は、右も左も分からない雪原へと逃げ出した。米軍の追跡から逃れ、極寒の大自然の中で必至にサバイバルを続けるが・・・。
冒頭の状況説明が済んでしまうと、映画は言葉による説明を一切止めてしまう。主人公は米軍に捕らえられる際に爆風でやられてほとんど耳が聞こえない。仲間も無く、ただ一人見知らぬ土地を逃げ回る主人公は一言も喋らない。『エッセンシャル・キリング』は、孤独な闘いを続ける主人公のサバイバルを台詞抜きで描き切ろうという野心作なんである。
主人公は(90年代以降ハリウッド製アクション映画定番の悪役である)アラブ人テロリスト。主人公の生死を掛けた行動は時に卑劣で安易な感情移入を妨げる。余計な説明や台詞を省いた演出は、説明過多な現在のハリウッド製アクション映画とは比べ物にならないシンプルさ。スコモリフスキの姿勢は、反「ハリウッド」がテーマなのではないかと思われるほどに徹底している。映画の語りってのはここまでシンプルに出来るもんだぜ、というスコモリフスキの不敵な顔が見えるようだ。『ザ・シャウト』の乱調ぶりとはうって変わって、ある意味アクション映画の王道を往く堂々たる演出と言えるかもしれない。
ラストシーン。瀕死の主人公が白馬に跨って雪原を行く。主人公の吐血が白馬の肌を赤く染める。このイメージが実に鮮烈で、映画全体のグレードがさらに高まった感じだ。
『エッセンシャル・キリング』は仙台のミニシアター、仙台フォーラムにて鑑賞。お客さんは自分入れて10人くらいであった。少な過ぎるよなあ。仙台の大学生とかあんまり映画見ないのかなあ。こういうトンがった作品には積極的に足を運んでアタマ掻き回されて欲しいものだが。