Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『スリ』(ジョニー・トー)

スリ [DVD]

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『スリ』 SPARROW 文雀


 監督/ジョニー・トー
 脚本/チェン・キンチョン、フォン・チーチャン
 撮影/チェン・チュウキョン、トー・フンモ
 音楽/ザヴィエル・ジャモー、フレッド・アヴリル
 出演/サイモン・ヤム、ケリー・リン、ラム・カートン、ロー・ホイパン
  (2008年・87分・香港)
 


 香港映画らしい熱気と人懐っこさ、従来の香港映画を越える洗練された描写、さらに旺盛な実験精神をも併せ持ち、熱狂的なファンを持つジョニー・トー監督。今やジョン・ウー不在の香港映画を牽引する存在である。フィルモグラフィーを見ると、香港ノワールからラブコメディーまで撮り尽くす多作ぶりで(どうやらメジャー資本の企画物と、低予算の個人映画を交互に撮り分けているらしい)、なかなか全貌は掴めないが、映画ファンなら要注目の監督なのは間違いない。


 ジョニー・トー監督の近作『スリ』(2008年)見る。日本劇場未公開のヴィデオスルー。4人組のスリ一味(サイモン・ヤム、ラム・カートン他)と、顔役に囚われた美女(ケリー・リン)が繰り広げる大騒動を描く。


 いやあ面白かったなあ。『エレクション』二部作(2005、2006年)のハード・バイオレンス路線とも、『ザ・ミッション 非情の掟』(1999年)、『エグザイル/絆』(2006年)、『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009年)他の男気アクション路線とも、『PTU』(2003年)、『ブレイキング・ニュース』(2004年)、『MAD探偵』(2007年)他のトリッキーなサスペンス路線とも違う、ジョニー・トーの新機軸。意外や意外、かつてフランス映画やイタリア映画が得意としていたような、軽妙洒脱な犯罪コメディである。しかも抜群に出来が良い。まさかこんなものまで撮ってしまうとは驚きである。笑いあり、サスペンスあり、美女あり、男の純情あり、ちょっとバイオレンスもあり、で87分。クライマックスは土砂降りの中でスリ合戦だ。香港の街並みに対する愛情が盛り込まれているのも新鮮だった。ジョニー・トー匠の真髄を見たようで感動した。


 出演はサイモン・ヤム、ラム・カートン、ラム・シューらお馴染みの顔ぶれ。いつもはねちっこい演技のサイモン・ヤムが軽やかな演技見せてくれる。サイモン・ヤムの下心のない爽やかな笑顔が見れるなんて。


 とても気に入ったので、ネットで感想拾ってみた。そしたら案外評判悪いんで驚いた。やっぱりジョニー・トーといえば派手な銃撃戦が無いと駄目なのか。俺は素晴らしい映画だと思うんだけどなあ。中年男4人組が自転車に相乗りしている姿見てるだけで楽しいじゃないか。ジョニー・トー作品未見の方にもお薦めです!