Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『吸血鬼ノスフェラトゥ』(F・W・ムルナウ )

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吸血鬼ノスフェラトゥ


 監督/F・W・ムルナウ
 原作/ブラム・ストーカー
 脚本/ヘンリック・ガレーン
 撮影/ギュンター・クランフ、フリッツ・アルノ・ヴァグナー
 出演/マックス・シュレック、アレクサンダー・グラナック、グスタフ・フォン・ワンゲンハイム
  (1922年・62分・ドイツ)


 今まで断片的にしか見た事がなかったサイレント時代の名作ホラー吸血鬼ノスフェラトゥ。BSで放映されたので、初めて全編を鑑賞。原作はブラム・ストーカー。


 凄く嫌な悪夢を見て目覚めた朝に、その夢を思い出そうとすると全体像は既に忘れかけていて、思い出せるのは断片だけ。その断片が正にスクリーンに再現されているような不快な迫力を感じた。吸血鬼が起き上がる姿、棺から湧き出る鼠の群れ、狂人の笑み・・・。吸血鬼が自分の棺を抱えて歩いて通りを渡ってくる妙に間延びしたショットがあったりするのも、悪夢の再現らしい迫真性があった。モノクロ、サイレントというのも一役買っているのだろう。


 何しろマックス・シュレック演じる吸血鬼が凄過ぎる。ひょろりと痩こけた身体、長く伸びた爪、スキンヘッドに尖った耳と異様な眼光・・・。あれはどう見ても人間とは違う何かだろう。


 こうして見ると、後年の様々なホラー映画に絶大な影響を及ぼしている事を確認できた。ムルナウの恐怖演出と悪夢的なヴィジョンは一生忘れられないようなインパクトがある。


 トビー・フーパー監督の『死霊伝説』(原作はスティーヴン・キングの『呪われた町』)には、『ノスフェラトゥ』調メイクの吸血鬼が登場していた。また、本作のリメイク版(1978年)ではクラウス・キンスキーが同様のメイクで熱演を見せてくれる。映像のムードもかなりオリジナルを意識した本格派で、イザベル・アジャーニブルーノ・ガンツら共演者も良かった。監督はヴェルナー・ヘルツォーク


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 また、『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000年)は、『吸血鬼ノスフェラトゥ』のバックステージを題材にした異色作。ムルナウジョン・マルコビッチ)は吸血鬼映画『ノスフエラトゥ』を製作中。他のスタッフやキャストには知らされていなかったが、主演のマックス・シュレック(ウィレム・デフオー)は本物の吸血鬼であった・・・というお話。撮影現場ではムルナウ監督以下のスタッフが、何故か全員白衣を着て工業用ゴーグルをしている。映画の撮影というよりも、何かの実験のような雰囲気なのだが、パンフによると史実通りなのだという。


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