Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『25時のバカンス』(市川春子)

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)


 市川春子氏の第二作品集『25時のバカンス』読む。


 第14回(2010年度)手塚治虫文化賞「新生賞」を受賞するなど高い評価を得た前作『虫と歌』(2009年)には、植物や虫や星と人間の不思議な交流を描く4つの短編が収録されている。どれも普段の日常とは違う世界の見方を提示してくれるもの、すなわち「SF」であった。こんなコミック描ける人がいるのだなあと大いに感激したものだ。


 今回の『25時のバカンス』には3つの作品が収められている。深海に棲む貝に侵食されたヒロインと、年の離れた弟の愛憎を描く表題作『25時のバカンス』。土星の衛星に立地する女子高の不良学生と無口な新入生の交流を描く『パンドラにて』。ドロップアウトした天才高校生が雪深い田舎町で謎の男と共同生活をする『月の葬式』。中では『月の葬式』が特に好きだった。男の友情あり、稲垣足穂的なびっくり感もありで。


 そして、今回もまた「SF」であった。『25時のバカンス』では深海の生命体、『パンドラにて』『月の葬式』では異星のものとの交流が綴られている。人間と人間ならざるものの交流を描くという大筋は前作と同じであるが、SF色がさらに強まった分だけ前作よりややとっつき難いかもしれない。


 ユーモアとソフトな絵柄で大分緩和されているけれど、かなり残酷でグロテスクな描写が多いのも特徴だ。前作では、人型の昆虫が登場する『虫と歌』がかなりイヤだった。今回は『月の葬式』だなあ。鳥肌立つくらい怖い。でも感動するんだよなあ。ラストシーンなんて、正視したくないなあと思いながらも、主人公の心意気にホロリとさせられてしまう。


 さておき、快い衝撃に身を委ねしばし日常の疲れを忘れることが出来た。次回作も楽しみだ。

 

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)