Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(エドガー・ライト)


スコット・ピルグリムvs邪悪な元カレ軍団』 SCOTT PILGRIM VS. THE WORLD


 監督/エドガー・ライト
 原作/ブライアン・リー・オマリー
 脚本/マイケル・バコール、エドガー・ライト
 撮影/ビル・ポープ
 音楽/ナイジェル・ゴドリッチ
 出演/マイケル・セラメアリー・エリザベス・ウィンステッドキーラン・カルキン、エレン・ウォン、ジェイソン・シュワルツマン
  (2010年・112分・アメリカ/イギリス/カナダ) 


 劇場で見逃して悔しい思いをしていたスコット・ピルグリムvs邪悪な元カレ軍団』をようやくチェック。監督は快作『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』のエドガー・ライト。しかしちょっと邦題が酷くて萎えるなあ。内容そのままだと言われればそれまでだけど。原題は SCOTT PILGRIM VS. THE WORLD。「スコット・ピルグリム対セカイ」ってな感じか。それでいいじゃんと思うんだけど。それはさておき。


 主人公スコット・ピルグリムマイケル・セラ)は、パーティーで出会ったミステリアスな女の子ラモーナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)に一目惚れしてしまう。ラモーナにアタックするスコットの前に、突然謎の男が現われ戦いを挑んできた。男はラモーナの元彼氏。ラモーナのハートを射止めるためには、次々と現われる7人の元カレたちを全員倒さなければならなかった・・・。


 90年代後半頃から、「ゲーム的」な映画が増えてきたように思う。「ゲーム的」とは、ゲームを原作とした映画化とかそういう事ではなくて、映画の構成要素や演出そのものにゲーム的な感覚が取り込まれているという事。自分がゲームをやらないせいか、そういった映画のあり方にはいまひとつ馴染めないものを感じている。起承転結の物語ではなく、「まずは状況(設定)ありき」「まずは見せ場ありき」という「ゲーム的」映画の特性により、キャラクター描写が類型的になりやすかったり、キャラクターの感情とアクションがきちんと連動しない歯痒さを感じたり。


 その点『スコット・ピルグリム』では、「ゲーム的」要素とストーリー・キャラクター・演出が巧みに結びつき、新たな映画としての魅力を生み出すことに成功していると思う。「一目惚れした女の子の愛を勝ち取るため、元カレ7人と対決を余儀なくされる」という唐突な設定がまずは笑いに繋がっているし、「好きな女の過去と対峙する」という恋愛の普遍的なテーマや、主人公の成長物語(主人公のピルグリム=巡礼という意味深な名前に注目)ときちんと結びついている。個々のアクションでキャラクターをきちんと描き分けているのも上手い。ゲーム的要素を取り込んだ映像表現は単なる遊びに終わらず、映画を活性化させている。ゲーム好きなら自分が気が付かないような小ネタをもっと楽しめることだろう。現在における「ゲーム的」映画の決定版なのではないかと思う。


 「ゲーム的」感性云々という部分を除けば、エドガー・ライト最大の武器は編集の上手さだ。抜群にセンスが良い。的確なアクション繋ぎでシーンを展開させ、字幕やアニメーションの挿入も巧みに使いこなし、往年の岡本喜八を彷彿とさせる面白さだ。『スコット・ピルグリム』では前作『ホット・ファズ』を上回る快テンポが楽しめる。また、音楽絡みの場面がとても上手いのも特徴。スタジオで練習している場面、ライヴハウスでのバンド対決の場面等、どれも面白い。バンドのメンバーにスティーヴン・スティルスだのヤング・ニールなんて奴がいる細かい音楽ネタにも笑わせてもらった。


 俳優陣の好演もあり、個々のキャラクターが生き生きと可愛らしく描かれているのも『スコット・ピルグリム』の魅力だ。主演のマイケル・セラを始め、メアリー・エリザベス・ウィンステッドキーラン・カルキン、エレン・ウォンら皆生き生きとして可愛らしい。ラスボスがマッチョ系ではなく『天才マックスの世界』のマックスことジェイソン・シュワルツマンなのも感慨深い。


 DVDにメイキング映像が収録されていて、見たらこれが実に楽しそうだった。あんな楽しそうなメイキングは久しぶりに見たかも。自分も参加したいと思ったもんなあ。現場のいい雰囲気がちゃんと本編に現れているようで良かった。