Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ゴーストライター』(ロマン・ポランスキー)


ゴーストライター』 THE GHOST WRITER


 監督/ロマン・ポランスキー
 原作/ロバート・ハリス
 脚本/ロバート・ハリスロマン・ポランスキー
 撮影/パヴェル・エデルマン
 音楽/アレクサンドル・デスプラ
 出演/ユアン・マクレガーピアース・ブロスナンキム・キャトラルオリヴィア・ウィリアムズトム・ウィルキンソン
 (2010年・128分・フランス/ドイツ/イギリス)  


 ムーンライダーズ活動休止宣言のショックから立ち直れず、朝からローテンションな日曜日。気分転換に映画館へと逃避する。MOVIX利府の〈午前十時の映画祭〉『ブラックサンデー』(ジョン・フランケンハイマー)とどちらにしようか散々悩んだ挙句、新作を見に行くことにした。


 ロマン・ポランスキー監督ゴーストライター見る。仙台駅前のミニシアター、チネ・ラヴィータにて。朝9:45と早めの回だったけど、お客さんはそこそこ入っていたので何だか嬉しかった。自分を含め、お客さんの年齢層はやや高め。映画好き/ミステリー好きの大人が集まったというような感じ。


 英国の元首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自叙伝執筆を依頼されたゴーストライターユアン・マクレガー)。前任のゴーストライターはアダム元首相の補佐官だったマカラで、泥酔してフェリーから転落死したのだった。気乗りしないままに、ラングへのインタビューをしながら、マカラが残した原稿の手直しを始めるが・・・。


 いやあポランスキー凄いわ。予想以上に面白かった。ポランスキーフィルモグラフィーの中では『チャイナタウン』(1974年)、『フランティック』(1988年)に連なるサスペンス・ミステリー。無駄を省いた語り口の快調なテンポ、物語の自然なスケール感、ユーモアの分量もいい塩梅で、ポランスキー円熟の名人芸が堪能できる素晴らしい仕上がりであった。簡潔な幕切れなど「いよっ!ポラさんお見事!」と声を掛けたくなるような名調子。1933年生まれというから、77歳の監督作品だよ。


 冒頭から印象的に鳴り響く音楽(アレクサンドル・デスプラ)がとても良い。ヒッチコックバーナード・ハーマンよろしく、これぞサスペンス・ミステリーの劇伴という感じでワクワクした。


 ゴーストライター役は『トレインスポッティング』のユアン・マクレガー、元英国首相アダム役は007ジェームズ・ボンドことピアース・ブロスナン。2人ともスターの華やかさとユーモアセンスがあるので、どちらかと言えば陰湿なストーリーに明るさをもらたしているのが良い。アダムの秘書を演じるキム・キャトラルはカーペンターの『ゴースト・ハンターズ』に出ていた人。アダム夫人役のオリヴィア・ウィリアムズと好対照で、キャスティングのセンスが光る。脇役にはトム・ウィルキンス、ティモシー・ハットンジェームズ・ベルーシら。何と言っても驚いたのは、イーライ・ウォラックの登場だった。前任のゴーストライター死亡について証言する重要な役どころでワンシーン出演。イーライ・ウォラックって誰?という人は、セルジオ・レオーネの大傑作『続・夕陽のガンマン』を見直すように。


 それにしても見事な映画だったなあ。さすがポランスキー、「不安」の描写に関しては一日の長があるなあと。『反撥』『ローズマリーの赤ちゃん』『テナント』の頃の異常神経も凄いと思うが、長年公私共に渡り「不安」と連れ添った挙句に、今や「不安」を描写する手つきには優雅ささえ感じられる。主人公が「ゴーストライター」としか呼ばれないところ、全編が曇天か土砂降りの雨という陰鬱な映像にもシビれた。