Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ディーモン/悪魔の受精卵』(ラリー・コーエン)

ディーモン 悪魔の受精卵 [DVD]

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『ディーモン/悪魔の受精卵』 GOD TOLD ME TO


 監督・脚本/ラリー・コーエン
 撮影/ポール・グリックマン
 音楽/フランコ・コーデル
 出演/トニー・ロー・ビアンコ、デボラ・ラフィン、サンディ・デニス、シルヴィア・シドニー、リチャード・リンチ
 (1976年・90分・アメリカ)


 『空の大怪獣Q』『悪魔の赤ちゃん』等のB級ホラー、近年ではテレフォン・サスペンス2部作(←勝手に命名)『フォーン・ブース』『セルラー』の原案・脚本で知られるラリー・コーエンの日本未公開作『ディーモン/悪魔の受精卵』。堂々とTSUTAYAの棚に並んでいたのでびっくりして借りてしまった。


 ニューヨークのど真ん中で白昼堂々ライフル乱射事件が発生。給水塔の上から無差別に発砲を繰り返す犯人を説得しようと、刑事ピーター(トニー・ロー・ビアンコ)は現場に向かう。しかし犯人は「神のお告げ」だと言い残して投身自殺を遂げるのであった。その後、ニューヨークで謎の殺人事件が頻発し、犯人は一様に「神のお告げ」でやったと告白する。事件の捜査を続けるピーターの前に、自らの出生にまつわる恐ろしい事実が浮かび上がった・・・。


 冒頭はドキュメンタリー・タッチの刑事ドラマ、中盤はオカルト・ホラー、終盤は何とびっくりのSFへと展開するいかにもB級映画らしい1作。脚本家出身のラリー・コーエンらしい(ちょっと)ひねったお話がなかなか面白い。クライマックスの舞台は『110番街交差点』とか『真夜中のカーボーイ』なんかに出て来そうなニューヨークの寂れた裏街で、いかにも70年代らしいざらついた映像とSFというミスマッチが楽しかった。クライマックスに登場する怪人(リチャード・リンチ)の脇腹にある○○には笑った。


 主演はトニー・ロー・ビアンコ。カルト映画『ハネムーン・キラーズ』の結婚詐欺師、70年代アクションの金字塔『フレンチ・コネクション』のサル・ボカ(吹替・山田康雄)といえばピンとくる人もいるだろう。おおよそSF映画とは無縁そうな顔つきのビアンコが、呪われた出生の秘密に悩む刑事役を大真面目に演じている。ビアンコの他にも、『ディーモン』は俳優の顔触れがなかなか興味深い。主人公の恋人役は、70年代青春スターの一人デボラ・ラフィン。主人公の元妻役はアルトマンの『雨に濡れた舗道』『わが心のジミー・ディーン』のサンディ・デニス。秘密を知る老婆役はフリッツ・ラングの『暗黒街の弾痕』等往年の名女優シルヴィア・シドニー。かなりトンデモなお話をそれなりに見せるのは、ビアンコはじめ俳優たちのしっかりした演技あってこそであろう。


 ・・・と、ここまで読んでなかなか面白そうだと思った人、見てがっかりしても責任取れませんよ。何しろ副題「悪魔の受精卵」だからね!