Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『銃殺』(ジョゼフ・ロージー)

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『銃殺』 KING AND COUNTRY


 監督/ジョセフ・ロージー
 脚本/エヴァン・ジョーンズ
 撮影/デニス・クープ
 音楽/ラリー・アドラー
 出演/ダーク・ボガードトム・コートネイ、レオ・マッカーン、ジェームズ・ビリアース、バリー・フォスター
 (1964年・86分・イギリス)


 赤狩りを逃れて亡命したジョゼフ・ロージー監督が、渡英後に撮った戦争映画『銃殺』(1964年)見る。


 第一次大戦中、脱走容疑で捕らえられた若い兵士(トム・コートネイ)が軍事裁判を受けることになった。かつての上官ハーグリーブス大尉(ダーク・ボガード)が弁護を担当することになり、兵士と面会する。兵士は口下手で悪意の無い人物で、家族に臆病者と思われている事に反発して軍に入った志願兵であった。大尉は彼の心情を理解し、軍事裁判で熱心な弁護を繰り広げるが・・・。


 戦争映画と言っても、勇ましい戦闘シーンなど一切出てこない。塹壕の中で行なわれる軍事裁判の行方を描いたシリアスなドラマで、テーマとしてはキューブリックの『突撃』やアルトマンの『ストリーマーズ』などに合い通じるものがあると思う。全編に渡ってしとしとと雨が降り続き、地面は泥まみれ、ドブネズミが這い回る劣悪な状況。ロージー監督は、主人公だけでなく塹壕の中の兵士たち全てが牢獄に囚われているかのような閉塞感を演出している。小品ながら見応えのある映画であった。


 英国軍人というとどうしてもモンティパイソンのコントを思い出してしまう。『銃殺』は重厚なタッチのドラマなんだけど、戦場での軍事裁判における不毛な駆け引きや、ドブネズミと戯れる兵士たちの姿など、ほとんどモンティパイソンの不条理コントさながらである。


 『銃殺』は非常にオーソドックスで端正な画面構成で成り立っている。ところが、どういう訳か2箇所だけヒッチコックばりの主観ショットが紛れ込んでいた。ひとつは上官たちが部屋でくつろいでいる場面で、雑誌を読んでいる人物の主観ショットが入る。もうひとつは銃殺刑の場面で、銃口を標的から外す主観ショットが入る。お話の流れから見るとそれぞれ別の人物の主観映像であろうが、切り返しショットが無いので、一体誰の主観だったのかは分からない。何やら異様なショットで印象に残った。