Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『わが心のジミー・ディーン』(ロバート・アルトマン)

『わが心のジミー・ディーン』 COME BACK TO THE FIVE AND DIME, JIMMY DEAN, JIMMY DEAN


 監督/ロバート・アルトマン
 原作・脚本/エド・グラツィク
 撮影/ピエール・ミニョー
 出演/サンディ・デニス、シェール、カレン・ブラック、スーディ・ボンド、キャシー・ベイツ
 (1982年・110分・アメリカ)
 

 ロバート・アルトマン監督『わが心のジミー・ディーン』見る。『ポパイ』の興業的失敗の後、低予算で舞台劇の映画化に取り組んでいた時期の作品。本作の次が『ストリーマーズ/若き兵士たちの物語』となる。無名の新人男優たちがメインの『ストリーマーズ』に対して、こちらは芸達者な女優たちがずらりと顔を揃えている。6人の名女優のアンサンブルが大きな見所だ。


 時は1975年、舞台はテキサスの田舎町にある一軒の雑貨店。ジェームズ・ディーンのファンクラブのメンバーが20年ぶりに集まった。巨乳が自慢のシシー(シェール)、太々しい性格のステラ(キャシー・ベイツ)、ちょっとトロいエドナ(マータ・ヘフリン)、メンバーの中で最もディーンを愛するモナ(サンディ・デニス)。雑貨店の老主人(スーディ・ボンド)が迎える中、再会を喜び若き日の思い出話で盛り上がるメンバーたち。そこに、黄色いポルシェに乗った見知らぬ女(カレン・ブラック)が現れた・・・。


 かつて同じアイドルに盛り上がった若い娘たちが、20年の歳月を経て再会したとき何が起きるのか。初期のドキュメンタリー『ジェームス・ディーン物語』で同時代的にジミーという存在を考察したアルトマンは、ジミーのファンの行く末を思いっ切り苦々しく描いてみせる。残酷な時の流れに抗いながら生きる女たちの姿は目を背けたくなるほど痛々しい。中でもサンディ・デニス演じるモナは特に痛々しい。『ジャイアンツ』にエキストラとして出演し、ロケ地でジミーと愛し合い子供を授かったと公言する彼女は、今でも夢の中にいる。サンデイ・デニスは微妙な表情の違いで童女にも疲れた中年女にも見える不思議なルックスで、ボテっとした体型がまたリアルだ。アメリカン・ニューシネマの代表的女優であるカレン・ブラックの意外な役どころにも驚かされた。


 本作は舞台劇の映画化であるからして、舞台は雑貨屋の店内に限定されており、カメラは店内から出ることは無い。アルトマンはカウンターの後ろにある大きな鏡を使い、過去と現在を同じ場所で描くという巧みな演出を見せる。マジックミラー越しの映像のような感じで、回想場面は鏡の向こうに映し出されるのだ。アルトマン作品でお馴染みの漂うようなカメラの動きとゆっくりとしたズーミング、時にオーバーラップを交えて、見事な呼吸で20年の時間を行き来してみせる。いかにも演劇的な限定空間を(しかも薄汚い雑貨店の店内を)、豊かな映画的空間に変えてしまうアルトマンの技は本当に凄い。


 お互い感情をぶつけ合った女たちは、また20年後の再会を約束してそれぞれ帰途に着く・・・。エンディング・クレジットに漂う無常感はただ事ではない。幽霊が映っているような気がして背筋が寒くなった。いや真面目な話。