Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『危いことなら銭になる』(中平康)

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『危(やば)いことなら銭になる』


 監督/中平康
 原作/都筑道夫
 脚本/池田一朗山崎忠昭
 撮影/姫田真佐久
 音楽/伊部晴美
 出演/宍戸錠長門裕之、草薙幸二郎、浅丘ルリ子左卜全、武智豊子
 (1962年・82分・日本)


 2013年の映画鑑賞1本目としてセレクトしたのは、日活アクションの名作と名高い危いことなら銭になる(1962年)。紙幣印刷用のスカシ入り和紙が何者かに強奪され、事件屋たち(宍戸錠長門裕之、草薙幸二郎)が、犯人グループに偽札作りの名人(左ト全)を売り込もうと争奪戦を繰り広げるが・・・というお話。


 冒頭の日活マークが終わると、黒バックに札束が舞っている。主人公(宍戸錠)の真面目な声でナレーションが入る。「子曰く、君子危うきに近寄らず。オレ曰く・・・」ここでメイン・タイトル。『危いことなら銭になる』! このオープニングからして絶好調。怪しげな歌詞の主題歌(作詞は谷川俊太郎)も面白い。


 脚本は『野獣の青春』(鈴木清順、1963年)、『殺人狂時代』(岡本喜八、1967年)、そして後に『ルパン三世』ファースト・シリーズに参加する山崎忠昭。そういえば男3人と女1人という配置もルパンを思わせる。遊戯的な活劇は山崎氏の得意分野のようで、個性的なキャラクター、ひねった物語展開、気の効いたオチなど、持ち味が存分に発揮されている。監督は日活のモダニスト中平康。登場人物たちにみな凄い早口で喋らせたり、エレベーターの上下の高さを生かした縦構図での銃撃戦を繰り出したり、あの手この手の見せ場を連発。軽快なテンポで突っ走り、82分はあっという間。和製クライム・アクションの名作としてカルト化しているというのも納得の面白さであった。日活アクション定番のキャバレー場面(色っぽいショー、西部劇調の乱闘)も楽しい。ちなみに本作はコメディ・タッチではあるがコメディではなくて、刺殺場面や銃撃戦の後の死屍累々など、殺人シーンが妙に生々しい。


 主人公は‘ガラスのジョー’と呼ばれる事件屋。タフガイのくせにガラスを擦る音が大の苦手(だからガラスのジョー)というふざけた役柄を宍戸錠が軽妙に演じている。ジョーのライバルは、「ボクは数字しか信用しないんです」が口癖の‘計算尺の哲’(長門裕之)、力自慢の‘ダンプの健’(草薙幸二郎)。紅一点は、柔道二段合気道六段の女子大生とも子。演じるのは若き日の浅丘ルリ子で、これが物凄おおく可愛いのだ。「メルシー・ボクー」には萌えたなあ。可愛いだけじゃなくて、トラックの運転手と路上で格闘する見せ場まであって驚いた。


 本作は「贋札の原版の争奪戦」ではなくて、「原版作りの名人の争奪戦」になっているのがミソ。名人を演じるのは左卜全。「ごみごみしていてうるさくて色っぽい場所」じゃなければ仕事しないとのたまうトボケた爺さん。その奥さん(武智豊子)がまたガンスピンを軽々こなすガンマニアの婆さんだったりして、この2人が画面をさらう。


 こういうひねった軽快なクライム・アクション、邦画でもやれば出来るのだなあ。ってもう50年以上前の映画じゃないですか、これ。こういうの新作で見たいですよ。黒沢清にはVシネ『勝手にしやがれ!』シリーズの頃に立ち返って是非ともこういうのやって欲しいなあ。『勝手にしやがれ!』シリーズの『黄金計画』『成金計画』はこの路線の傑作なのだ。なんなら新劇場版でも。