Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『怒りの用心棒』(トニーノ・ヴァレリ)

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『怒りの用心棒』 IL PREZZO DEL POTERE


  監督/トニーノ・ヴァレリ
  脚本/マッシモ・パトリッツィ
  音楽/ルイス・エンリケス・バカロフ
  出演/ジュリアーノ・ジェンマ、ウォーレン・ヴァンダース、フェルナンド・レイ、ヴァン・ジョンソン
  (1969年・イタリア・115分)



 少し前の事になりますが、ジュリアーノ・ジェンマ主演のマカロニウエスタン『怒りの用心棒』がBSで放映されたので、久々に再見しました。


 舞台は南北戦争直後のテキサス州ダラス。遊説に訪れた大統領(ヴァン・ジョンソン)が何者かに暗殺された。主人公ビル(ジュリアーノ・ジェンマ)の友人ジャック(レイ・サンダース)が犯人として逮捕されるが、無実を信じるビルは真相を解明しようと奮闘。やがて、暗殺の背後に無法者一味と街の有力者(フェルナンド・レイ)たちがからんでいることが判明するが・・・というお話。


 ダラスを遊説に訪れた大統領が暗殺された・・・という粗筋でお分かりの通り、これはテキサス州ダラスで起こったケネディ大統領暗殺が元ネタになっています。事件は1963年だから、実に6年後の映画化です。パレードの途中で大統領が狙撃される場面(オープンカーではなくて馬車だけど)や、裁判で弾道の方向が問題になる等、マカロニならではの素早い見世物根性であれこれ盛り込んでいます。この映画に関してはアレックス・コックスがマカロニ本で完璧に紹介しているので、そのまま引用してみます。


「レオーネが『ウエスタン』を撮った翌年、同じセットを使って彼の助監督だったトニーノ・ヴァレリが撮った西部劇。だが、物語はケネディ暗殺事件を基にしている上、犯人は一人ではなく右翼経済人と副大統領と断じている。『JFK』より23年も早い! 映画としての出来はいまいちだが、何とも妙な作品だ」


 いやはやアレックス・コックスの言う通り。カルトと呼ぶほどの過剰さは無いけれど、こういう味のある珍品が紛れ込んでるのがマカロニウエスタンの面白さ。当時の観客はどう思ったんだろうなあ。


 マカロニウエスタンは、ブーム後期になるほどパロディ色やコメディ色が強まっていく傾向があります。マカロニウエスタンの影響下にあるロバート・ロドリゲスのメキシコ三部作など見るにつけ、おふざけや突拍子も無いギミックこそマカロニという風潮が根強いのだなあと思います。それはそれとして間違いではないけれど、個人的にはシリアス路線のマカロニウエスタンが好きです。あくまで真剣勝負がマカロニの基本、真面目にやればやるほど映画という虚構のいいかがわしさが滲み出てくるのが魅力で、なおかつ痛快な活劇であるというのがマカロニウエスタンならではの楽しさであろうと思います。


 そういった意味では『怒りの用心棒』など、正に私の好きな方向性のマカロニウエスタンです。「ケネディ暗殺を題材にした西部劇」と聞くと何やら凄そうですが、イタリア人たちが大真面目に取り組んでいるのが胡散臭さ抜群で、アクション場面は少ないながらも引き締まっていて活劇としても見応えがあります。監督は『怒りの荒野』『ミスター・ノーボディ』のトニーノ・ヴァレリ。画面の半分に人物のドアップを配置するなど、師匠レオーネゆずりのメリハリの効いた(効き過ぎた?)構図が面白い。


 主演は先日交通事故で亡くなったマカロニ・スター、ジュリアーノ・ジェンマ。ジェンマといえばアクロバティックなガンプレイと陽気なキャラクターが売り物で、マカロニヒーローの中では唯一ヒロインと結ばれるハッピーエンドが多いハンサム・ガイ。ミケーレ・ルーポやドゥッチオ・テッサリの監督作品ではイメージ通り明るく軽い役が多いのに、トニーノ・ヴァレリと組むと暗くシリアスな役なのが面白い。本作など主役ジェンマが登場するのは開始後15分以上経過してから。父親と親友を殺された復讐に燃える暗い役どころで、女っ気も皆無。個人的には本作のようなシリアス・ジェンマの方が好きだなあ。


 本作はジェンマだけでなく、脇役も充実しています。飲んだくれの医者(『荒野の用心棒』で酒場のオヤジを演じたホセ・カルボ)、主人公を助ける松葉杖の新聞記者、大統領補佐官ら皆存在感があって良い。無法者一味の濃い顔つきもマカロニウエスタンならでは。


 脇役と言えば、黒幕の一人を演じているのはルイス・ブニュエル作品や『フレンチコネクション』で知られるフェルナンド・レイフェルナンド・レイといえばどうしても『フレンチコネクション』の「フランスのヒゲ」のイメージが強いのでフランス人かと思いきや、実はスペインの俳優さん。なので、本作の他にも『ガンマン大連合』『さすらいのガンマン』等マカロニやイタリアン・アクションに多数出演しているのでありました。


 ちなみに本作は日本劇場未公開で、『怒りの用心棒』とは以前TV放映された時の題名。その後『ダラス・ブリット/怒りと復讐の果て』『復讐のダラス』の邦題でビデオ発売され、現在は『怒りの用心棒』としてDVD化されています。マカロニ邦題のパターン通り、主人公は別に用心棒じゃないんですが。



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