Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『シノーラ』(ジョン・スタージェス)

シノーラ [DVD]

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 ジョン・スタージェス監督、クリント・イーストウッド主演の西部劇『シノーラ』(1972年)鑑賞。イーストウッドの出演作品は、無名時代のB級映画(『半魚人の逆襲』『タランチュラの襲撃』等)を除けばほとんど見ていると思っていましたが、何故かこれは見逃していました。TVで放映されたので日本語吹替版で鑑賞。もちろん、イーストウッド山田康雄です。


 監督は『OK牧場の決斗』『大脱走』『荒野の七人』のジョン・スタージェス、脚本は犯罪小説の名手エルモア・レナード。さらに撮影と音楽にはそれぞれブルース・サーティースラロ・シフリン、とシーゲル/イーストウッド組の常連が顔を揃え、これは絶対面白いだろうと期待は高まりますが・・・。


 メキシコとの国境に近いシノーラの町では、土地の権利を巡って白人の地主とメキシコ人の農民との間で争いが起きていた。メキシコ人を率いるチャマ(ジョン・サクソン)は裁判所を襲い土地の権利書を燃やし、投獄されていた仲間を牢から助け出して逃亡する。大地主ハーラン(ロバート・デュヴァル)が追跡隊を組織してチャマの後を追う。ハーランに雇われて追跡隊に参加したジョー・キッド(クリント・イーストウッド)は、ハーランの非情なやり口に反旗を翻して・・・というお話。


 邦題の「シノーラ」は舞台となる町の名前で、原題は主人公の名前Joe Kiddです。その割に主人公のアクションでグイグイ引っ張っていくような作劇にはなっていないというか、ドラマにおけるジョーの立ち位置が非常に微妙で、見ていて何だか力が入りません。イーストウッド演じる主人公ジョー・キッドは、タイトルロールに謳われるほどには活躍しないのです。ドラマの中心となるのはメキシコ人のリーダー、チャマですが、こいつも単なる敵役なのか男気溢れる好漢なのか至って中途半端な描き方しかされていません。スタージェスの演出は全体にもっさりしていてキレが悪く、アクション場面も冴えません。残念ながら、あんまり見せ場のない凡作なのでありました。


 72年と言えば『ダーティハリー』と『荒野のストレンジャー』の間くらいでしょうか。イーストウッドはまだ若々しくて頭髪も黒々フサフサしています。面白かったのは、そろそろ後年の超然とした不気味なキャラクターの片鱗を見せているところです。いわゆる西部劇のヒーローのように一対一で正面きって対決する場面など無く、イーストウッド演じるジョー・キッドはもっぱら不意打ちで敵を仕留めていきます。最初の方で裁判所から判事を助け出す場面など、銃弾をかいくぐって全力疾走する訳でもなく、悠然と歩いて行くあたりもイーストウッドらしい。でも、ジョー・キッドという役柄はあんまりイーストウッドらしくない。何故なら、地に這いつくばる場面がないからです。もしも、ジョーがハーラン一味に捕らえられ、拷問の果てに傷ついた身体で反撃に転じる場面があれば、映画はもっとギラギラと輝いたであろうと思います。


 余談になりますが、イーストウッドセルジオ・コルブッチ監督のペシミスティックなマカロニ『殺しが静かにやって来る』(1968年)が好きだったそうです。本作には『殺しが』で主人公サイレンスが使っていた銃(モーゼル)が登場。イーストウッドは『殺しが』でヒロインを演じたヴォネッタ・マッギーを自作の『アイガー・サンクション』にキャスティングしたりしています。


(『シノーラ』 Joe Kidd 監督/ジョン・スタージェス 脚本エルモア・レナード 音楽/ラロ・シフリン 撮影/ブルース・サーティース 出演/クリント・イーストウッドロバート・デュヴァルジョン・サクソン、ドン・ストラウド、ステラ・ガルシア、ジェームズ・ウェインライト、ポール・コスロ 1972年 88分 アメリカ)