Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『二役は大変!』(ドナルド・E・ウェストレイク)

二役は大変! (ハヤカワ文庫―ミステリアス・プレス文庫)

二役は大変! (ハヤカワ文庫―ミステリアス・プレス文庫)


 ドナルド・E・ウェストレイク『二役は大変!』Two Much(1975年)読了。


 グリーティング・カード制作会社の社長アートは、休暇先で出会った双子の美人姉妹に惹かれて、自分も双子だとつい嘘をついてしまいます。後に引けなくなったアートは、一人二役で双子を演じて姉と妹両方と付き合い始めます。彼女たちが莫大な遺産を相続する予定であることがわかり、アートはその遺産まで我が物にしようと画策しますが・・・というお話。一人二役で双子を演じて、美人の双子姉妹と付き合おうとするプレイボーイを描いたコメディ・タッチのミステリーです。原題はtoo muchならぬ、Two Much。双子好きの村上春樹が読んだら激怒しそうな(?)お話でありました。


 片や真面目な教師タイプ、片や奔放な遊び人タイプ、性格の違う美人姉妹とプレイボーイの恋の駆け引き・・・というロマンティック・コメディかと思いきや、そこはウェストレイク。コネを総動員してアリバイを作り、スケジュールを調整して、変装(眼鏡と髪型という古典的な仕掛け)で一人二役を演じるアートの姿はほとんどスラップスティック調に描かれています。「そんな上手く行くかよ」と突っ込みたくなるようなムチャな展開を、巧みな人物描写とスピーディーなギャグでテンポ良く読ませるあたりは正に名人芸。ところが本作は「ハヤカワミステリ」文庫であり、そのまま愉快な恋愛話で終わるはずがありません。


 物語の終盤、遺産を巡る争いの中、アートははずみで殺人を犯してしまいます。ここから結末までの展開には驚かされました。因果応報なんて知らないよ言わんばかりのどす黒い結末は、コメディタッチのままで片足ノワールに突っ込んだような妙な後味でありました。結末をどう受け止めるかで好き嫌いが分かれそうな気がします。
 

 ちなみに、本作は映画化されているようです。フェルナンド・トルエバ監督、アントニオ・バンデラスメラニー・ グリフィス、ダリル・ハンナ出演の『あなたに逢いたくて』(1996年)。この邦題からすると、ロマンティック・コメディに仕上がっているのでしょうか。結末は原作そのままなのでしょうか。見てみたいような、見たくないような・・・。