Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『おちゃのじかんにきたとら』(ジュディス・カー)

おちゃのじかんにきたとら

おちゃのじかんにきたとら


 ウチの娘も大好きな、絵本『おちゃのじかんにきたとら』The tiger who came to tea(1968年)について。ネットで調べてみたら、これは定番中の定番みたいですね。それも納得の興味深い一冊です。
 

 主人公の女の子ソフィーとお母さんがお茶の準備をしていると、玄関のベルが鳴りました。玄関に立っていたのは大きな虎です。「お腹が空いているので、お茶の時間にご一緒させていただけませんか?」と言う虎を、お母さんは優しくもてなします。ところが、虎はテーブルの上のサンドイッチやお菓子だけでなく、家中の食べ物や飲み物を食べ尽くしてしまいました。満腹となった虎は帰っていきますが、晩御飯の食料が無くなってしまいました。そこへお父さんが帰宅。お母さんが事情を話すと、お父さんは三人で外出しようと提案し、レストランで楽しい時間を過ごしたのでした・・・というお話。


 のんきなお話も面白いですが、とにかく絵がいいんですよ。妙に礼儀正しい(でも食欲旺盛な)虎の様子。食物を探す時は抜け目ない野生動物の目つきなのがおかしい。英国の家庭を描写したインテリアやファッションの楽しさ。異常事態にもクールな表情のソフィー(虎の尻尾と戯れたりしている)。


 『おちゃのじかんにきたとら』を読んだ妻は、「これは育児で忙しくて夕食の買い物に行けなかった母親が、帰宅した旦那にファンタジックないい訳をするお話だ」と言っていました。なるほどねえ。でも待てよ。妻の「ファンタジックないい訳」を、優しく受け入れる夫・・・。そうか、『おちゃのじかんにきたとら』は小さい娘にとっても、母親にとってもファンタジーなのだなあと。お母さんが娘のソフィーと同じくらい子供っぽい絵柄で描かれているあたり意図的なものなのかもしれません。仕事で疲れて帰宅したら、夕食の支度が出来ていないばかりか食べるものが全く無い!という状況でも、優しく笑って受け入れられる心の広い父親・・・ううむ・・・そんな風に・・・私も・・・なれたら・・・いいな・・・。


 ジュディス・カーの他の作品も探してみました。ふとっちょの猫モグと飼い主一家の交流を描く『わすれんぼうのねこ、モグ』『モグといたずらきつね』は、本書に比べて絵柄が若干コミック調でラフな感じでしたね。


わすれんぼうのねこ モグ

わすれんぼうのねこ モグ