Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『でんぱコネクション』『でんぱコネクションフレンチ』(井口昇)

WWDD (通常盤)

WWDD (通常盤)


 今年のでんぱ組.incはTVの歌番組やCM等メディアへの露出が格段に増え、ワールドツアーも決行、と勢いが感じられます。いよいよお茶の間レベルでブレイクしそうですね。でんぱ組は「正統派アイドル」というよりは、「アイドルを演じている謎のパフォーマンス集団」みたいな感じでとても面白い。メンバーの統一感の無い不揃いな感じ(個性的ともいう)も好ましい。2月にリリースされたアルバム『WWDD』も愉快な仕上がりで愛聴しています。・・・って、そうなんです。ファンなんです!


 とカミングアウトしたところで、でんぱ組.inc主演のTVムービー『でんぱコネクション』(2012年)について。各話5分、全10話のショートムービーで、監督は異才・井口昇。井口監督のマニアックな作風からしてでんぱ組との組み合わせには納得です。井口監督は日本武道館公演の幕間のショートフィルム、しょこたんとのコラボ曲『PUNCH LINE!』のPVも担当していて、井口監督のちょっとハズしたポップさはでんぱ組によくフィットしていると思います。


 『でんぱコネクション』は70年代アメリカン刑事ものTVムービーのパロディで、でんぱ組のメンバーは70年代風ファッションに身を包み、付け髭とカツラで男装して荒くれ刑事を演じています。さらに名高達男や渡辺哲らおっさん俳優が台詞を吹き替えるという珍演出で、猛烈な自主映画臭さを醸し出しています。どこをどう見てもいわゆる「アイドル映画」とはかけ離れた世界ですが、こういう妙なものに喜々として出演している辺りがでんぱ組らしい。メンバーの男装は、カーリーヘアのカツラが似合うピンキーも良いですが、中でも『破壊!』のエリオット・グールドみたいなえいたそが出色の出来です。我が推しメンのりさちーは、新人刑事のチコ役。リーダーなのに。残念ながらあんまり目立ってません。


 刑事ドラマのパロディという部分においてはいささか投げやりで、「それ風の」という辺りで留まっています。細部を再現して笑わせようという演出意図はあまり感じられなくて、井口監督らしさは全く別のところにあります。これでもかと繰り出される変顔や珍妙なポーズ、そして何と言ってもドラマ終盤に登場する「上半身は男装(付け髭、カツラあり)+下半身は生足」という場面ですよ。この屈折したフェティシズムこそが、井口演出ならではの見どころだと思いますね。


(『でんぱコネクション』TVM 監督・脚本/井口昇 撮影/ふじもと光明 音楽/福田裕彦 出演/でんぱ組.inc古川未鈴、相沢梨沙、夢眠ねむ成瀬瑛美藤咲彩音最上もが、(声の出演)名高達男坂田雅彦、新納敏正、堀本能礼、福井博章、渡辺哲 2012年 各話5分 全10話 日本)




 で、今年放映された姉妹篇『でんぱコネクションフレンチ』。こちらはでんぱ組演じる探偵団(またしても男装)が難事件に挑むという設定。全編横浜ロケ、音楽シャバダバシャバダバとトロヴァヨーリ風、副題「でんぱオシャレ探偵局」という訳で、どういう路線を目指しているのかは一目瞭然なのですが、前作同様に「それ風の」という辺りで留まっています。お話は前作以上に支離滅裂で、またしても強烈な自主映画臭さを放っています。真面目に作ればこれはこれで面白くなりそうな設定だけに、ちょっと残念でした。


 メンバーはまたしても男装(吹替はなし)で出演しています。今回は男装の他に、各メンバーが2役で出演しているのが見どころで、こちらは普通に女性役でアイドルらしい可愛い感じで出てきます。が、むしろ男装でバタバタ走り回っている方が生き生きして見える辺りがでんぱ組らしいなあと。井口監督は前作以上にメンバーの変顔や珍妙なポーズを次々と繰り出し、そんな彼女たちのエキセントリックな魅力を引き出しています。そして「男装でボーイズ・ラブを撮る」という辺りが井口演出のこだわりどころでしょうか。


 せっかくなんで井口監督には『クルシメさん』や『恋する幼虫』の頃の作風で、でんぱ組主演のシリアスな映画をやって欲しいなあ。彼女たちの暗さというかモジモジ感はきっと上手くハマると思うんですがね。


(『でんぱコネクションフレンチ』TVM 監督・脚本/井口昇 撮影/長野泰隆 音楽/福田裕彦出演/でんぱ組.inc古川未鈴、相沢梨沙、夢眠ねむ成瀬瑛美藤咲彩音最上もが 2015年 各話5分 全13話 日本)




クルシメさん/アトピー刑事 愛の井口昇劇場 1988-2003 [DVD]

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恋する幼虫 [DVD]

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