Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ワイルド・ビル』(ウォルター・ヒル)

 ウォルター・ヒルついでにもう一本。実在した保安官ワイルド・ビル・ヒコックを描いた西部劇『ワイルド・ビル』(1995年)について。日本劇場未公開。


 映画はワイルド・ビル・ヒコックの葬儀に始まり、彼の晩年と死に到る経緯が描かれていきます。そこで描かれるエピソードは人間臭いと言えば聞こえはいいけど、相当に格好悪いものばかり。恋人カラミティ・ジェーンとの痴話ゲンカ。伝説の西部男として舞台に立ち巡業するが気乗りしない様子。目や身体の衰えに悩む姿。阿片窟に引きこもり朦朧とした姿。しまいには過去の愛人との子供に命を狙われる始末で、好漢ジェフ・ブリッジスが演じているからまだ救われているけれど、あれでは態度がデカいだけの嫌なおっさんにしか見えん。伝説の西部男の偶像破壊をしようというのか、人間臭さを描いて親しみやすい人物として再提示したかったのか、ヒル(脚本も兼任)の立ち居地がいまひとつ不明瞭だと思いました。


 イーストウッドの『許されざる者』(1992年)以降、まだ西部劇を撮ろうというウォルター・ヒルのこだわりは良いとしても、映画としての仕上がりは単なる「西部劇」にしてはかなり異色で、活劇でもなく、過去のジャンルに対する郷愁でもなく、かといって偶像破壊の過激さも無く・・・。ヒルが何をやりたかったのかいまいち意図を図りかねる作品でありました。


 出演はジェフ・ブリッジスの他、カラミティ・ジェーン役のエレン・バーキンジョン・ハートダイアン・レインキース・キャラダインブルース・ダーンジェームズ・レマーと面白い顔ぶれです。


 音楽はヴァン・ダイク・パークス。音楽はヴァン・ダイク・パークス。って嬉しくて2回書いちゃったけど。劇伴に、酒場等の状況音楽に、お得意のノスタルジックなサウンドを聴かせてくれます。ヴァン・ダイクにライ・クーダーって、ヒルはバーバンク・サウンドのファンなのか。


 ちなみにヒルはこの後『ブロークン・トレイル遥かなる旅路』(2006年)というTVムービーでまたしても西部劇を撮っています。(これは未見)ジャンルに対するこだわりは素晴らしいと思うんですが・・・。本作の後では、見たいような見たくないような。


(『ワイルド・ビル』 WILD BILL 監督・脚本/ウォルター・ヒル 撮影/ロイド・エイハーン二世 音楽/ヴァン・ダイク・パークス 出演/ジェフ・ブリッジスエレン・バーキンジョン・ハートダイアン・レインキース・キャラダイン、デヴィッド・アークエット 1995年 98分 アメリカ)