Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『裸のジャングル』(コーネル・ワイルド)

 コーネル・ワイルド監督・主演『裸のジャングル』(1966年)鑑賞。町山智浩氏の名著『トラウマ映画館』で紹介されていたのを読んで、是非見てみたいと思っていた作品です。


 舞台はアフリカ、象牙を目的にやってきた白人ハンターたちが原住民とトラブルを起こし捕らえられた。原住民の領域を侵したハンターたちは皆殺しにされるが、原住民に敬意を持って接していたガイドの男(コーネル・ワイルド)だけは、生きるチャンスを与えられる。衣服も武器も食料も全て奪われ身一つでジャングルに放り出された男は、原住民の追撃をかわしながら生き延びようとするが・・・というお話。


 『トラウマ映画館』において、本作はメル・ギブソン監督の『アポカリプト』(2006年)の原点として紹介されています。見ると納得。主人公が知力と体力を尽くして追っ手からひたすら逃げまくるというシンプル極まりない構成、台詞は最小限、サバイバルの描写、原住民の野蛮な拷問や野生動物の生態などモンド映画テイストもありで、活劇ならではの面白さが横溢しています。野生動物を撮ったショットは明らかに別撮りと分かりますが、俳優のリアクションと上手く編集されていてそんなに違和感は感じません。描写が非常にドライなのも印象的で、原住民の子供との触れ合いなんてベタつかずちょうどいい塩梅です。あっさりさした幕切れも「はい、ゴール!」ってな感じでいいじゃないですか。


 監督・主演はコーネル・ワイルドヒュー・ジャックマンに似た精悍な顔つきのハンサムで、本作ではほぼ全編半裸で出ずっぱりの熱演です。物腰がジェントルなせいか、マッチョっぽい押し付けがましさはありません。プロフィールを調べてみたら元フェンシングのオリンピック選手で、40年代から俳優として活躍していたとのことです。個人的には、ジョーゼフ・H・ルイスの『ビッグ・コンボ(「暴力団」)』で見たことがあります。本作を見る限り俳優としての存在感、製作者としての企画力、監督としての演出力は只者ではないと思いますね。それこそアクションスター兼監督としてイーストウッド、メル・ギブの先輩格に当たる人物かと思われます。フィルモグラフィーを見ると他にも何本か監督作品があるようなので、是非見てみたいなあ。あ、『ショック!生きていた怪獣ガーゴイルズ』なんてのにも出ているぞ。


 そういえば、サミュエル・フラー監督の『赤い矢』(1957年)に似たような場面があったことを思い出しました。『赤い矢』は北軍を憎悪するあまり白人社会には帰属せず、スー族の娘と結婚しインディアンとして生きようとする元南軍兵(ロッド・スタイガー)を描く異色の西部劇。劇中で主人公がスー族の一員として認められるために受ける通過儀礼(原題のRUN OF THE ARROW)が印象的に描かれていました。要はインディアンの戦士たちが矢を放ちながら追いかけてくるのを全速力で走って逃げるという。『裸のジャングル』は映画としての強度はさすがにフラーには劣るというか幾分ユルいけれど、負けず劣らず満足感がありました。


(『裸のジャングル』THE NAKED PREY 監督/コーネル・ワイルド 脚本/クリント・ジョンストン、ドン・ピータース 撮影/H・A・R・トムソン 音楽/アンドリュー・トレイシー 出演/コーネル・ワイルド、ゲルト・ヴァン・デン・ベルク、ケン・ガンプ1966年 94分 アメリカ)


裸のジャングル [DVD]

裸のジャングル [DVD]


トラウマ映画館 (集英社文庫)

トラウマ映画館 (集英社文庫)