Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アーリーデイズ1975-1981』(ムーンライダーズ)

 ムーンライダーズの初期音源集『アーリーデイズ1975-1981』(2014年12月17日リリース)について。CD三枚組で、DISC1と2は1975年の結成時から1977年までの未発表ライヴ音源、DISC3にはライダーズがバッキングを務めた楽曲と『カメラ=万年筆』のデモ音源が収録されています。ライヴ収録曲は、


DISC 1
M1. イントロダクション
M2. ラム亭のママ
M3. 紡ぎ歌
M4. 酔いどれダンス・ミュージック
M5. 地中海地方の天気予報
M6. ラム亭のママ
M7. 酔いどれダンス・ミュージック
M8. あの娘のラブレター
M9. 髭と口紅とバルコニー〜ウイリアム・テル序曲
M10. スカンピン
M11. ウエディング・ソング
M12. 月の酒場
M13. Beep Beep Be オーライ

DISC 2
M1. 火の玉ボーイ
M2. 魅惑の港
M3. Beep Beep Be オーライ
M4. 紡ぎ歌
M5. シナ海
M6. ドイツ兵のように
M7. スパークリングジェントルメン
M8. ウスクダラ
M9. 七夕の天の川
M10. リラのホテル
M11. 釣り糸
M12. 砂丘
M13. さよならは夜明けの夢に
M14. 魅惑の港
M15. 浮気なスー
M16. 悲しき足音


 クラウンレコード時代の『火の玉ボーイ』から『イスタンブール・マンボ』までの選曲が主で、デビュー当時の若々しい演奏が収められています。ライブでのアクシデント(時間切れで強制終了させられてしまう)も生々しく記録されています。DISC 2のM15〜M16は1976年青山VAN99ホールでの演奏で、ライダーズとしては非常に珍しいオールディーズのカバーです。この時期の無国籍でドリーミーなサウンドには違和感無く溶け込んでいます。


 地方に住んでいたこともあり、初めてライダーズを生で見たのは1992年12月のライヴ(『A.O.R.』ツアー、NHKホール)でした。こうしてアーカイヴ・シリーズを聴いていると、クラウン時代の(20代の)若々しいライヴも見てみたかったなあと思います。歌も演奏も伸びやかで、とても楽しそうなんですよね。写真を見るとみんな痩せててね。


 で、問題はDISC3です。DISC3にはライダーズがバッキングを務めた楽曲と『カメラ=万年筆』のデモ音源が収録されています。収録されている曲は、


DISC 3
01. ウスクダラ(江利チエミ
02. シシカバブー(江利チエミ
03. あいつ(パンダフル・ハウス)
04. ブラディー・マリー(古谷一行
05. メロディ(もりうこうぞう)
06. 陸羽茶室(小倉エージ)
07. 香港功夫(小倉エージ)
08. ペテン師(西郷輝彦
09. モダーン・ラヴァーズ(西郷輝彦
10. つくり話(アグネス・チャン
11. Love me little Love me long(アグネス・チャン
12. 水の中のナイフ(DEMO)
13. 沈黙(DEMO)


 「芸能界」という大括りの中で起きた、ロック/歌謡曲のミクスチャーというか衝突事故というか、なかなか興味深い曲ばかりで楽しめました。M9はシングルカットもされたライダーズの人気曲ですが、これを西郷輝彦が熱唱!バックの演奏は原曲とほぼ同じ(ように聴こえる)ので、ニューウェーヴ以降の慶一さんのしゃくりあげ唱方と、クッキリハッキリの歌謡曲唱方の差異が際立ちます。M10はかしぶちさんが自らのレーベルからアーカイヴシリーズとして出していた曲。M6、7は音楽評論家の小倉エージ氏の歌。解説によると音楽評論家が歌う企画アルバムがあったんだそうです。


 中でも特筆すべきは、M1、2の江利チエミですよ。M1はその後アルバム『イスタンブール・マンボ』にライダーズ・バージョンが収録されています。M1、2のエキゾチックなサウンドは、最早ロック/歌謡曲の境目など無い濃厚な楽曲に仕上がっており、ライダーズの演奏もアルバム・バージョンよりはじけているように聴こえます。M2に入るライダーズの合いの手も楽しい。あんまり面白いんでこの2曲だけ何度も繰り返し聴いてしまいました。


 きっとライダーズの長い歴史の間には、こういった面白い曲がまだまだ眠っていると思います。以前ライダーズのメンバーが他のアーティストに提供した曲をレコード会社別に集めた「イイ仕事!」シリーズがありましたが、あんな形で発掘してくれないかなあ。