Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『或る殺人』(オットー・プレミンジャー)


 昨日『スキドゥ』について書いたので、オットー・プレミンジャー監督作品をもう1本。川本三郎氏の名著『サスペンス映画ここにあり』でも紹介されていた『或る殺人』(1959年)について。


 ジェームズ・スチュアート主演の法廷ドラマということで『スミス都へ行く』など思い出して、シリアスな社会派ドラマなのかなと想像していたら、全く違っていた。スチュアート演じる主人公の弁護士は、仕事にあぶれて秘書に給料も払えない状態なのに、趣味の釣りに精を出しているというのん気なキャラクターなのだ。妻(リー・レミック)をレイプした男を射殺した夫(ベン・ギャザラ)の弁護を引き受けるのだが・・・というお話で、個人的に法廷ものは映画的と思えずあまり好きではないのだが、本作はとても面白かった。主人公を始め、友人のアル中弁護士(アーサー・オコンネル)、主人公と対立する検事(ジョージ・C・スコット)、胡散臭い容疑者夫婦(リー・レミック、ベン・ギャザラ)といった登場人物たちが非常に人間臭く描かれているのが魅力的。ドラマは結構苦々しい幕切れを迎えるが、主人公たちの大人っぽいキャラクターでユーモラスに締めくくられているので救いがある。


 音楽は何とデューク・エリントン。パーティーの場面には本人出演のオマケつきなんで、JAZZファンも楽しめるに違いない。タイトル・デザインはソウル・バス


 主人公と丁々発止のやり取りを繰り広げる検事を演じるのは名優ジョージ・C・スコット。本作は映画デビューの頃らしいが、とてもそうは思えぬアクの強さだった。1927年生まれというから、当時32歳?信じられん貫禄だ。


(『或る殺人』 ANATOMY OF A MURDER 監督/オットー・プレミンジャー 脚本/ウェンデル・メイズ 原作/ロバート・トレイヴァー 撮影/サム・リーヴィット 音楽/デューク・エリントン 出演/ジェームズ・スチュワートリー・レミック、ベン・ギャザラ、ジョージ・C・スコット、アーサー・オコンネル、キャスリン・グラント 1959年 160分 アメリカ)


サスペンス映画 ここにあり

サスペンス映画 ここにあり