Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『遊撃の美学 映画監督中島貞夫』(中島貞夫、河野真吾)

遊撃の美学―映画監督中島貞夫

遊撃の美学―映画監督中島貞夫


 ワイズ出版の日本映画本、『遊撃の美学 映画監督中島貞夫』(2004年)読了。中島監督は、自分が苦手なジャンル(仁侠映画、ヤクザ映画)の典型的な監督というイメージがあって、その作品はほとんど見たことが無かった。フィルモグラフィーを確認すると『狂った野獣』しか見ていなかった。本書を読むと、むしろ主流監督からは若干ズレた立ち位置で映画を作り続けてきた(時代の流れで時折主流になってしまったりする)事がわかった。ジャンルや題名やキャストで敬遠していた作品群もちゃんと見てみたいと思った。膨大なフィルモグラフィーの中で気になったのは、『893愚連隊』(1966年)、『現代やくざ血桜三兄弟』(1971年)、『木枯し紋次郎関わりござんせん』(1972年)、『女番長感化院脱走』(1973年)、『ジーンズ・ブルース明日なき無頼派』(1974年)、『脱獄広島殺人囚』(1974年)、『実録外伝大阪電撃作戦』(1976年)、『沖縄やくざ戦争』(1976年)・・・。食わず嫌いしないでちゃんとチェックしとけば良かった。新宿昭和館とか中野武蔵野ホールが存命だった頃には普通に劇場で見れたはずだよなあ。


 本書のもうひとつの魅力は、(今は無き)撮影所の群像、撮影所全盛期の映画作りの様子が生き生きと綴られていることだ。映画監督の評伝に描かれる撮影所の様子、本多猪四郎岡本喜八なら東宝石井輝男なら東宝、新東宝東映鈴木則文なら東映、本書なら東映、とそれぞれ特色のある映画作りの様子に興味は尽きない。


 そんな訳で中島監督の『総長の首』をレンタルしてみました。まだ冒頭の20分くらいしか見れてないけど、音楽、画調、タイトルの字形、俳優の顔つき、それら全てが「東映」以外の何者でもないという感じで強烈。そんなに馴染みのあるジャンルではない(というより積極的に避けてきた)にもかかわらずこんなに明確なイメージが感じられるというのは凄いことだと思う。色褪せてコマ飛びしたプリントの上映、新宿昭和館の雰囲気まで思い出す。『総長の首』は冒頭の印象ではかなり良さそう。同様に大正時代のアナーキストを主人公とした神代辰巳『宵待草』との比較も面白そうだ。


狂った野獣 [DVD]

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