Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ビューティフル・デイ』(リン・ラムジー)

ビューティフル・デイ -オリジナル・サウンドトラック

ビューティフル・デイ -オリジナル・サウンドトラック


 リン・ラムジー監督『ビューティフル・デイ』鑑賞。主演ホアキン・フェニックス、音楽ジョニー・グリーンウッド、とポール・トーマス・アンダーソン組が揃っているなあと、その程度の予備知識で見て仰天した。これ、傑作じゃないですか!


 元軍人のジョー(ホアキン・フェニックス)は行方不明者の捜索を請け負うプロの仕事人。少年時代に父親から受けた虐待、軍隊時代の経験のトラウマによって自殺願望を抱えている。ある日、売春組織に囚われた娘を連れ戻してほしいという政治家からの依頼を受けたジョーは、ハンマーを手に乗り込み見事救出に成功するが、そこには非情な罠が待ち受けていた・・・。


 お話よりも見所はその語り口で、精神を病み自殺願望に取り付かれた主人公の視点が巧みに映像化されている。過去のフラッシュバック、微妙に不安定な構図や意表をつく音楽の挿入が見事な効果を上げていた。暴力描写も抑制が効いていて(ほとんど事後の様子だ)良い。本作は「『タクシードライバー』の現代版」と評されているようだが、失踪した娘を探して見知らぬ土地へ足を踏み入れるという『捜索者』パターンのお話なので、アバンギャルドな演出の『ハードコアの夜』という趣もある。


 熊みたいな図体と髭面で主人公ジョーを演じるのはホアキン・フェニックス。同居している年老いた母親との会話(『サイコ』の真似をする場面が妙におかしい)、死に掛けた殺し屋の手を握ってあげる場面など忘れ難い。繊細な名演技でカンヌ映画祭男優賞も納得だ。


 本作は『ガルシアの首』『ピアニストを撃て』『セリ・ノワール』『恐怖のまわり道』といった、暴力の中に孤独な人間の魂の彷徨を描いた作品群に連なる犯罪映画の逸品だと思う。素晴らしい。


(『ビューティフル・デイ』 YOU WERE NEVER REALLY HERE 監督・脚本/リン・ラムジー 原作/ジョナサン・エイムズ 撮影/トム・タウネンド 音楽/ジョニー・グリーンウッド 出演/ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット 2017年 90分 イギリス)



ビューティフル・デイ (ハヤカワ文庫NV)

ビューティフル・デイ (ハヤカワ文庫NV)