Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

映画感想その8

 昨日の続きです。最近見た映画、または大分前に見たけど感想を書きそびれていた映画について、ここらでまとめて感想を書き記しておきます。


『ハートロッカー』(キャスリン・ビグロー) 

 イラクで爆弾処理に従事する通称「ブラボー中隊」のリーダーが殉職し、新たなリーダーとしてジェームズ(ジェレミー・レナー)が就任する。ジェームズは死を恐れず危険な任務をこなしていくが、無謀な行動に同僚のサンボーン(アンソニー・マッキー)らは不安を募らせてゆく・・・。過酷な戦場の現実を描いた硬派の社会派アクション。手持ちを多用した撮影は見ていて疲れるけど、臨場感は充分。危険なミッションの連続に最後まで緊張が途切れない。

 この映画は、野郎についてのドキュメンタリー(生態観察?)みたいな部分、も面白い。酒飲んでふざけている内に本気になって取っ組み合いの喧嘩になったり、職場(戦場)では有能であっても実生活ではおつかいも満足に出来ない(スーパーでシリアルを買う場面が秀逸)とか、チーム内の力関係と仲間意識とか、休憩時間のだらけた感じとか、子供への接し方とか・・・。とにかく、野郎たちの描き方が妙にリアルであった。軍隊経験者のオリバー・ストーンならいざしらず、女性監督なのだから、その観察眼というか、男の生態についての把握ぶりは凄いなあと思う。主人公ジェームズを演じるジェレミー・レマーの太々しい存在感が抜群。豪快なキャラクターではなくて、実はどこかが麻痺してしまった人物であることが分かってくる辺りも上手い。後はガイ・ピアースレイフ・ファインズデヴィッド・モースら著名俳優がチョイ役出演して、ビグロー姉御の「男祭り」に色を添えている。 
 「戦争は麻薬である」という冒頭の言葉に舞い戻るラストシーンが辛い。一見西部劇のガンマンみたいにも見えるが、果たして主人公の強運はいつまで続くのだろうか。

(『ハートロッカー』 THE HURT LOCKER 監督/キャスリン・ビグロー 脚本/マーク・ボール 撮影/バリー・アクロイド 音楽/マルコ・ベルトラミ 出演/ジェレミー・レナーアンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、レイフ・ファインズガイ・ピアース 2008年 131分 アメリカ)




『蝿男の呪い』(ドン・シャープ) 

 『映画の生体解剖 恐怖と恍惚のシネマガイド』で取り上げられていて興味を持った1本。ヴィンセント・プライス主演の『蝿男の恐怖』シリーズ3作目。物質転送装置と蝿との融合という基本設定はあるものの、お話としてのつながりはない。物質転送装置に執念を燃やすマッド・サイエンティストを描くお話で、ジャンル的にはSF寄り。なんだけど、自ら転送を繰り返す内に身体が崩れていく博士、人体実験で失敗して奇形になった人間を幽閉しているとか、怪奇映画テイストも色濃い。全体に突っ込み不足というか、キャラクターも状況設定も個々の見せ場ももっと面白くなるんではないかと食い足りなさが残った。

(『蝿男の呪い』 CURSE OF THE FLY 監督/ドン・シャープ 脚本/ハリー・スポルディング 撮影/ベイジル・エモット 音楽/バート・シェフター 出演/キャロル・グレイ、ジョージ・ベイカー、ブライアン・ドンレヴィ、ジェレミー・ウィルキンス、イヴェット・リース、バート・クウォーク 1965年 87分 イギリス)




『ドラッグ・ウォー/毒戦』(ジョニー・トー) 

 香港映画の雄ジョニー・トー監督が中国大陸で撮った1作で、中国を舞台に麻薬取引をめぐる公安と犯罪組織の攻防を描く。『エグザイル/絆』や『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』で見せた一種ファンタジーのような世界観とは違い、乾いたタッチでハードなアクションが展開する実録調。銃撃戦ひとつとっても映画によって様々なバリエーションを見せるトー監督の懐の広さには感心する。正直のところ『毒戦』は確かに凄かったのだが、あまりに陰惨な展開なので鑑賞後は気分が落ち込んでしまった。何しろ主要な登場人物のほとんど全員が死に、最後は死刑執行の場面で終わるのだ。 

(『ドラッグ・ウォー/毒戦』 毒戰DRUG WAR 監督/ジョニー・トー 脚本/ワイ・カーファイ、ヤウ・ナイホイ、チャン・ワイバン、ユー・シー 撮影/チェン・チュウキョン 音楽/ザヴィエル・ジャモー 出演/スン・ホンレイ、ルイス・クー、ホァン・イー、ウォレス・チョン、ラム・シュー、ラム・カートン、ミシェル・イェ 2012年 106分 香港/中国)


ドラッグ・ウォー / 毒戦 [DVD]

ドラッグ・ウォー / 毒戦 [DVD]



『Hi Mam!』(ブライアン・デ・パルマ) 

 ブライアン・デ・パルマ監督の初期作品。以前『BLUEMANHATTANⅠ・哀愁の摩天楼』なる謎の邦題でソフト化されていたアレです。ゴダール調、というよりリチャード・レスター風のコミカルな演出に若きデ・パルマの自主映画魂が炸裂していて実に楽しい。終盤に出てくる、擬似ドキュメンタリータッチで撮られた「黒人になれ、ベイビー」という寸劇の場面の緊張感は凄い。あれを見れただけでも価値があった。主演はひょろひょろに痩せたデ・ニーロ。冒頭で出てくるアパートの大家はチャールズ・ダーニングかな。音楽は名盤『「Cul De Sac』のシンガーソングライター、エリック・カズ。 

(『BLUEMANHATTANⅠ・哀愁の摩天楼(HI, MOM!)』 Hi Mam! 監督・脚本/ブライアン・デ・パルマ 撮影/ロバート・エルフストロム 音楽/エリック・カズ 出演/ロバート・デ・ニーロ、アレン・ガーフィールド、ララ・パーカー、ジェニファー・ソルト 1970年 87分 アメリカ)


カル・デ・サック

カル・デ・サック



犬ヶ島』(ウェス・アンダーソン

 ウェス・アンダーソン監督によるストップモーション・アニメーション。日本が舞台で犬が活躍するお話、くらいの漠然とした前知識で見に行ったのでかなり驚いた。ウェス・アンダーソンの「脳内日本」とでも呼ぶべき奇妙な世界で、少年と犬たちが権力者と闘争を繰り広げる活劇篇、なのであった。加えてミフネ、『七人の侍』、そして『酔いどれ天使』とまさかの黒澤明オマージュが全編に渡り展開、ようやるわいと感動した。乾いたユーモアの中に熱い心が隠されていて、犬たちが時々涙を流すのがとても良かった。ウェス・アンダーソンの演出は時に画面凝り過ぎの印象でどうも肌に合わないなあと思っていたけど、これはとても好きな作品。

(『犬ヶ島』 ISLE OF DOGS 監督・脚本/ウェス・アンダーソン 撮影/トリスタン・オリヴァー 音楽/アレクサンドル・デスプラ 出演(声)/エドワード・ノートンビル・マーレイ、野村訓市、ブライアン・クランストンフランシス・マクドーマンド夏木マリ 2018年 101分 アメリカ)



 この項、もうしばらく続く。