Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『TITANE/チタン』(ジュリア・デュクルノー) 

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 昨日の続きです。早稲田松竹「ジュリア・デュクルノー×ブランドン・クローネンバーグ ボディ・ホラーの後継者たち」『ポゼッサー』『TITANE/チタン』二本立て。ジュリア・デュクルノー監督『TITANE/チタン』について。

 

 本作は直接的にはデヴィッド・クローネンバーグの『クラッシュ』からの影響を感じさせます。主人公アレクシア(アガト・ルセル)は、子供の頃に交通事故で傷を負い、頭にチタン製のプレートを埋め込まれている。アレクシアは車と性行為に及び、やがて妊娠。性器から黒い液体(エンジンオイル?)が流れ出す。何だそれと思われるかもしれませんが、本当にそういう場面が出てきます。交通事故で夫婦愛を確かめたり、ハリウッドスターの交通事故死を再現しようとしたり(原作にはハリウッド・セレブと交通事故死することを夢見る男が出て来ます)、『クラッシュ』も大概おかしい映画ですが、描写のえげつなさやしつこさはクローネンバーグ以上と言えるかもしれません。乳首ピアスに髪の毛が引っかかって無理やり引きはがすとか、洗面台の角に顔面打ち付けるとか、主人公の凶器は金属製のアイスピックみたいなヘアピンだし、痛そうな場面がこれでもかと出てきます。『ポゼッサー』は何だか小ぢんまりし過ぎていて不満が残りましたが、『チタン』はいったいこれは何の話なんだと着地点が見えない面白さがありました。

 

 今回の二本立ての共通点は、両作とも女性が主人公であることです。そこに注目するならば、『ポゼッサー』では主人公が男性の人格を乗っ取り、仕事の妨げとなっていた家族を抹消することで完璧な暗殺者となる。『チタン』では、連続殺人で逃亡者となった主人公は、胸と次第に膨らんでゆく腹部をテープで縛って男性になりすまし、マッチョ集団(のように描かれている)の消防士たちの中に身を投じる。二本とも主人公が過激な方法でジェンダーを超えてゆく姿が描かれます。というか、ボディ・ホラーというジャンルを借りて、女性がそういった痛み(過剰さ)を選択しないと超えられない男性的社会の壁を描いているようにも見えました。『チタン』の後半は、主人公をかくまう消防署署長の親父のキャラが強すぎて、過激な生き方を選択する主人公のドラマがかすんでしまったのが残念です。

 

 それともうひとつの共通点、エンディングで気がついたのですが、音楽が同じ人(ジム・ウィリアムズ)でした。上手く説明できないのですが、『ポゼッサー』の音楽は凄く父クローネンバーグっぽかった。メロディというよりも映画の中での響き方が。『チタン』の方はまた違ったテイストで面白かったので、この名前は覚えておこう。

 

『TITANE/チタン』 TITANE 監督・脚本/ジュリア・デュクルノー 撮影/ルーベン・インペンス 音楽/ジム・ウィリアムズ 

出演/アガト・ルセル、 ヴァンサン・ランドン、ギャランス・マリリエ、ライス・サラーマ、ドミニク・フロ、ミリエム・アケディウ、ベルトラン・ボネロ

2021年 フランス・ベルギー