Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アンビリーバブル・トゥルース』『はなしかわって』(ハル・ハートリー)

 

 ハル・ハートリーは90年代に紹介されたアメリカのインディペンデント映像作家のひとりで、ナイーブな作風で人気があった。自分も当時『トラスト・ミー』『シンプルメン』の二本立てを高田馬場の二番館で見て大いに気にいり、『愛・アマチュア』『FLIRT/フラート』と新作を追いかけた。最近Twitter(今はXか)のフォロワーさんがハートリーを話題にしているのを見て、未見だった『アンビリーバブル・トゥルース』『はなしかわって』をチェックしてみた。

 

 ハートリーの長編デビュー作『アンビリーバブル・トゥルース』(1989年)。当時日本では劇場未公開で、別題(『ニューヨーク・ラブストーリー』)でヴィデオが出てた。殺人の罪で服役を終えた主人公ジョシュ(ロバート・バーク)が戻ってきたことから、小さな街の人々に動揺が広がる。自動車修理工として働き始めたジョシュと経営者の娘オードリー(エイドリアン・シェリー)は反発し合いながら次第に接近してゆく。

 俳優の動かし方や編集に才気走ったところを見せるが、尖がったところよりもユルい人柄の良さみたいなものが透けて見えるのが何とも可愛らしい。80年代特有のファッションと空気感。狭い人間関係の小さな規模の映画だけど、息苦しくないのが良い。

 本作と『トラスト・ミー』に主演したエイドリアン・シェリーは得難い個性だなと改めて思った。彼女は今どうしてるんだろうと調べてみて、不幸な亡くなり方をしたことを知ってショックだった。ロバート・バークはこの後『シンプルメン』にも出演。『ロボコップ3』でピーター・ウェラーに続く二代目ロボコップを演じた人でもある。そっちでは残念ながらブレイクできなかったようだが。

 

 

 

 ハートリーの近作(と言ってももう12年も前の作品)『はなしかわって』(2011年)。59分の中編。マンハッタンの街を一人の男が歩き回る話。男(D・J・メンデル)は自分は金欠で困っているのに、何故か街で出会う人たちを助けてしまう。

 不器用な人物たちが右往左往する可笑しみ、音楽絡みの場面が光り輝く様は初期作品から変わらぬ変わらぬハートリーの世界だった。マンハッタン街並みや人物の切り取り方、編集のテンポはシャープさを増しているようだ。でも何か違う。上手すぎる、というか安定感がありすぎる。ってのも変な感想だけど。初期作品のユルさ(青さ?)が失われてるのが少し寂しかった。最後唐突な交通事故で終わるのは、今だ残るゴダールの残滓か。