Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『黒いジャガー』シリーズ

 

 友人の妙愛博士からディスクをお借りしたので、『黒いジャガー』シリーズを続けて鑑賞。『黒いジャガー』といえば黒のレザーコートでキメた私立探偵シャフト(リチャード・ラウンドツリー)が活躍する大ヒット作。70年代ブラック・ムービーの最もメジャーな作品であり、後年のアクション映画への影響力も大きい。妙愛博士からお借りした2作目、3作目は未見だったのでありがたい。

 

 1作目『黒いジャガー』(1971年)。監督ゴードン・パークス、出演リチャード・ラウンドトゥリー、モーゼス・ガン、チャールズ・シオッフィ、クリストファー・セント・ジョンほか。シャフトのファッションセンス、ニューヨークの生々しいロケーション、そしてアイザック・ヘイズの音楽、三者が絶妙に絡み合い醸し出す独特のノリが楽しい。アクション場面は質感たっぷりで見応えがある。映画の印象に70年代特有の翳りがあんまり感じられないのは、主人公シャフトが一種の超越した存在、それこそ007やハリー・キャラハンのようなスーパー・ヒーローとして描かれているからだろう。やたら女性にモテて、相手が誰だろうと太々しい態度を崩さず難局を切り抜ける。本作では、肝心の誘拐事件の顛末はよく分からない内に、シャフトの高笑いで煙に巻かれてエンドマーク。脚本は『フレンチ・コネクション』『荒野のストレンジャー』のアーネスト・タイディマン。

 

 

黒いジャガー/シャフト旋風 (字幕版)

黒いジャガー/シャフト旋風 (字幕版)

  • リチャード・ラウンドツリー
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 シリーズ2作目『黒いジャガー/シャフト旋風』(1972年)。監督パークス、脚本タイディマンは続投。路面に雪が残るニューヨーク。シャフトの友人が爆殺され、消えた大金を巡り悪党どもが騙し合う。1作目よりもハードボイルド探偵ものっぽい筋立てになっている。終盤のアクションはカーチェイス、ボート、ヘリコプターと盛りだくさん。

 監督パークスの個性が光るのは、クライマックス直前のシークエンス。シャフト、悪党たち、それぞれが、次第に夜が明けていくオレンジ色の光に照らされながら墓地に集結するまでのフォトジェニックな映像にカメラマン出身パークスの感覚が冴える。ドアのデザインガラス越しに歪んだ映像を生かした凝ったラブシーンもしかり。

 

 

黒いジャガー/アフリカ作戦(字幕版)

黒いジャガー/アフリカ作戦(字幕版)

  • リチャード・ラウンドツリー
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 シリーズ3作目『黒いジャガー/アフリカ作戦』(1973年)。監督は何とジョン・ギラーミン。大ヒット作『タワーリング・インフェルノ』の前年の作品だ。脚本は『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』の2大パニック映画の他、シーゲル『殺人捜査線』『テレフォン』、ペキンパー『キラー・エリート』、フライシャー『センチュリアン』、イエーツ『マーフィの戦い』、ジェイソン『夜の大捜査線』等を手掛けたアクション派スターリング・シリファント

 映画の前半、石井輝男『やさぐれ姐御伝/総括リンチ』の池玲子全裸チャンバラに対抗するように、シャフトが漆黒の肌と彼のシャフトも露わに全裸棒術アクションを披露する見せ場で度肝を抜く。対抗するようにって書いたけど、両者は同じ1973年の作品だ。全裸シンクロニシティか?

 本作のシャフトはNYを離れ、アフリカ某国の人身売買組織に奴隷として潜入捜査を行う。って私立探偵の領分をはるかに超えていて、まるでスパイ映画のようだ。異国の風景と音楽、シャフトのスーパーマンぶり、女性を見ると必ず色目を使う辺りはほとんど007のノリだ。このシリーズの魅力は舞台となるNYの街、音楽やファッション、風俗描写と緊密に結びついていた。ホームグラウンドを離れてなお、太々しい存在感を放つラウンドトゥリーは立派。終盤は舞台がパリに移り、人身売買組織と派手なアクションが展開。事件解決後、飛行機の中で女性と再会する辺りの呼吸も007を意識しているようだった。

 脇役で『殺しが静かにやって来る』のヴォネッタ・マギー、悪役でお馴染みアルド・サムブレムというマカロニウエスタン好きには嬉しいキャスティング。