Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『コールガール』『パララックス・ビュー』(アラン・J・パクラ)

 

 監督アラン・J・パクラ+撮影ゴードン・ウィリスの傑作スリラー『コールガール』(1971年)を久々に再見。

 

 失踪した同僚を探す男(ドナルド・サザーランド)と事件の鍵を握るコールガール(ジェーン・フォンダ)がNYの裏通りを彷徨う。暗さを基調としたウィリスの撮影が絶品で、全編を覆う不穏な雰囲気がたまらない。こういうのこそ劇場で見たいなと思う。

 

 アメリカ映画のサスペンス・スリラーは、60年代反共パラノイア・スリラーからケネディ暗殺を経て、70年代はウォーターゲート事件で疑心暗鬼に陥る政治パラノイア・スリラーに移行。『コールガール』は政治スリラーではないけれど、覗き、盗聴、敵は内にあり、と正にその系譜に連なる作品で、不穏な空気が画面に充満している。

 

 途中で真犯人を明かしてしまうことで分かる通り、本作の主眼は犯人探しには置かれてない。けれど、探偵映画的な面白さは充分。ハードボイルド探偵風のサザーランド、屈折した女性像を体現するフォンダ、ヒモ役でギラついた演技を見せるロイ・シャイダーモリコーネよろしく女性コーラスを使用した物憂げな音楽(マイケル・スモール)が雰囲気を盛り上げる。

 

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 監督パクラ+撮影ゴードン・ウィリスコンビでもう1本印象的なのが『パララックス・ビュー』(1974年)。政治家の暗殺を請け負い、暗殺者を養成する謎の会社「パララックス・ビュー」。調査に乗り出したジャーナリスト(ウォーレン・ベイティ)が陥る罠を描く傑作。こちらも全編を覆う陰気で不穏な雰囲気、クライマックスのブラスバンドの演奏をバックにした暗殺など忘れ難い。監督パクラ+撮影ウィリスコンビが次に手掛けたのがリアル政治スリラー『大統領の陰謀』だ。