Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『失踪者たちの画家』(ポール・ラファージ)

 

 ポール・ラファージ『失踪者たちの画家』(1999年)読了。全く知らない作家だけど、柴田元幸翻訳本にハズレなしのセオリーに沿って手に取ってみた。個人的には「失踪者」という言葉もポイント。

 

 主人公は画家志望の青年フランク。事件現場の死体写真を専門とする女性写真家プルーデンスに恋し、助手を務めるうちに仲を深めていくが、ある日彼女は忽然と姿を消してしまった。フランクは彼女の肖像画を描き、捜索願ポスターを町に貼り出す。身内に失踪者を持つ者たちのコミュニティで話題になり、フランクは失踪者の肖像画を描く画家として成功を収めていく。フランクの描いた肖像画を使用した捜索願いポスターが街中に貼り出される・・・。ここまでが第一部。風変りな男女の恋愛ドラマ、もしくは失踪者の肖像画家という奇妙なサクセス・ストーリーのようにも読める。しかしここから物語は(ポール・オースターのごとき)不条理な運命に暗転する。

 

 フランクは警察に捕らえられ、正式な捜査ルートに対する反乱罪だと裁判も行われぬままに監獄に送られる。絵を描く事を禁じられた監獄での過酷な日々。街に革命が勃発し、フランクは監獄から逃れる。すべてを失ったフランクは人形工場に職を得る。そこでプルーデンスそっくりの人形と出会って・・・。物語の後半は、予想外のシュールな展開を見せる。

 

 監獄の中に存在する書割のようなもう一つの街。人形制作の詳細な描写。人形を被告に行われる子ども裁判。失踪者たちの仮面を被ったパレード。人形が語るプルーデンスの秘密・・・。奇怪なイメージが次々と登場、映像的にも実に面白い。これは誰か映画にすべきだろう。今回も「柴田元幸翻訳本にハズレなし」であった。

 

 それにしても、失踪者の主題は何故こうも魅惑的なのか。

 

「去った人たちはあたしたちのこと見張ってるのよ、自分の世界より彼らの方に気持ちが向いている人を見たら、さらっていってしまうのよ。」