Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『殺す』(J・G・バラード)

殺す (海外文学セレクション)


 バラードをもう一冊。旧作『殺す』Running Wild(1988年)再読。


 完璧な警備システムに守られていたはずの高級住宅街で起こった32人の大量殺人と子供13人の誘拐事件。その顛末と真相の推理を、現地を訪れた医師の法医学日誌のかたちで綴っていく。結局事件は解決を見ないのだが、語り手の意外な推理には、あまりの恐さに小便ちびりそうになる(失礼)。冷徹な描写の数々、特に犯行を再現するクライマックスの迫真力は凄い。


 『殺す』は中編と言ってもよさそうな長さだけれど、その後バラードは同様のテーマを『コカイン・ナイト』『スーパー・カンヌ』『千年紀の民』で深く掘り下げていく事になる。


 ちなみに本書は東京創元社から出ているのだけれど、その後に出た『スーパー・カンヌ』『コカイン・ナイト』『楽園への疾走』なんかが順次文庫化されているのに、何故かこれは文庫化が遅れていた。来る8/20にようやく文庫化されるようなので、興味のある方は是非手に取ってみていただきたい。ちなみに、所有しているハードカバー版の帯には「バラード自身の脚本で映画化決定」なんて書いてある。どうなったんだろうなあ。誰が監督する予定だったんだろう。デ・パルマだったら面白いだろうなあ。クライマックスの犯行再現場面で画面分割が始まったりして。


 バラードの映画化といえば、監督ブラッド・アンダーソン+主演クリスチャン・ベイルの『マシニスト』コンビで、『コンクリートの島』の企画が進んでいるらしい。これは楽しみだ。