Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ユー・ガット・メール』(ノーラ・エフロン)

ユー・ガット・メール [DVD]

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『ユー・ガット・メール』 You've Got Mail


 監督/ノーラ・エフロン
 脚本/ノーラ・エフロン、デリア・エフロン
 音楽/ジョージ・フェントン
 撮影/ジョン・リンドレイ
 出演/トム・ハンクスメグ・ライアングレッグ・キニア、パーカー・ポージー
 (1998年・119分・アメリカ)


 ルビッチ監督の『街角 桃色の店』(1940年)を見たら、偶然にもリメイクの『ユー・ガット・メール』(1998年)がBSで放映されたのでチェックしてみた。自分は今回が初見だけれど、トム・ハンクスメグ・ライアン主演のメジャー作品なので見た人も多かろう。


 舞台はニューヨーク。老舗の小さな本屋を経営するキャスリーン(メグ・ライアン)は、インターネットで知り合った男性とのEメールの交換に夢中。そんな時、キャスリーンの店のすぐ側にチェーンの大型書店が開店する。キャスリーンと大型書店のオーナーのジョー(トム・ハンクス)は商売敵として顔を合わせれば喧嘩ばかり。だが、キャスリーンのメール相手は実はジョーだった。お互い気がつかぬまま、メールを通じて惹かれ合っていくが・・・。


 続けて見たせいで、リメイクするに当っての変更点や工夫がはっきりと分かって面白かった。『街角 桃色の店』では主人公たちが手紙で文通するところを、Eメールの交換に変更している。オリジナルでは同じ雑貨店の店員たちのお話だったが、リメイク版は対立する本屋のオーナー同士という設定に変更している。クライマックスを雪のクリスマスから春の公園に変更している。などなど。舞台をニューヨークに変更して、丁寧なロケーションと優しい音楽(ニルソンやランディ・ニューマン等が使われている)で雰囲気作りをしているのには好感を持った。ちょっと全体に音楽流れ過ぎの気もするけれど。「何で男の人は皆『ゴッドファーザー』が好きなの?」なんて台詞は面白かった。


 オリジナルでは舞台となる雑貨店の人々がきちんと描かれており、脇役に至るまで印象が残った。リメイク版では主人公の男女に加えて恋人や父親などキャラクターが増えているが、ほとんど必然性が見出せず印象に残らない。まあルビッチと比べるのも酷かもしれないけれど。


 リメイク版ということは一旦忘れて、単体の恋愛映画としてみた場合にはどうであろうか。個人的には、終盤の展開がどうしても腑に落ちない感じであった。彼女は自分の店を潰した相手と結ばれた訳で、閉店でクビにした同僚たちからは縁切りされるであろう。店は失ったけれど、新しい素敵な恋人と結ばれました(玉の輿だ!)・・・って、おいおい、それでいいんかい、と思ってしまう。しかも許せないことに、あの男は何も失っていないのだ。相手の正体を知っていながら(しかも大事な店を奪っておきながら)、あれこれ彼女を誘導してハッピーエンドに持ち込もうと画策する男の姑息な行動にはとても同調出来るものではなかったなあ。トム・ハンクスが演じてるからまだそれほど嫌な人物には見えないけれど。流れとしては、彼女も途中で相手の正体に気がついていて、彼が正直に告白するまでの間、ゲーム的に付き合ってあげていた・・・という感じでないと駄目じゃないかなあと思う。何しろ大切な店を奪った相手なのだ。いくら何でも少しくらいしっぺ返しが必要ではないか。