Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『オズ』(ウォルター・マーチ)

『オズ』 Return To OZ


 監督/ウォルター・マーチ
 脚本/ウォルター・マーチ、ギル・デニス
 音楽/デイビッド・シャイア
 撮影/デイビッド・ワトキン
 出演/ファルーザ・バーク、ニコール・ウィリアムソン、ジーン・マーシュ
 (1985年・109分・アメリカ)


 BSで『オズ』が放映されたのでチェックしてみた。先日読んだ『映画もまた編集である』の名編集者ウォルター・マーチ唯一の監督作品である。


 お話は『オズの魔法使い』の続き(原題はReturn To OZ)。オズの国に戻ったドロシー(ファルーザ・バーク)が、仲間たちと共に冒険を繰り広げる。前作の仲間(カカシ、ライオン、ブリキの樵)に変わって、今回仲間は雌鳥ビリーナ、ぜんまい仕掛けの兵隊ロボットティック・トック、かぼちゃ頭のジャック、空飛ぶベッド・ガンプ。他にも岩石の身体のノーム王、手足が車輪になっているホイーラーズ、首を取り替える事が出来るモンビ王女など様々なキャラクターが登場。統一感の無い、取り散らかった感じがこれはこれで面白い。


 本作は1985年製作。当時としては最先端のSFXを駆使したファンタジー大作ということになろうが、CG以前の作品なので、ミニチュアワークやクレイアニメなどローテクSFXが要所に盛り込まれているのが楽しかった。子供の頃原作を読んだという妻は、「お弁当がなる樹」などが忠実に映像化されていると喜んでいた。


 個人的には、いささか演出の手つきがクールだなあという印象を受けた。このジャンルならではのワクワク感に乏しいというか、生真面目過ぎるというか。原作を損なわないように真面目に丁寧に取り組んだ結果なのかもしれないが、例えば映画の冒頭部分。オズの国から帰ったドロシーは、オズの国での体験を話すが、誰も信じてくれない。そればかりか竜巻の恐怖でドロシーがおかしくなったのではないかと疑うおじさんおばさんに、病院に入れられてしまう。病院ではマッドサイエンティストのごとき医師に電気療法を受けさせられそうになる。嵐の夜に病院を抜け出したドロシーは、川に転落して濁流に飲まれてしまう・・・。という冒頭の展開はディズニー提供とは思えないほどシリアスで不穏なタッチで描かれている。


 テリー・ギリアムティム・バートンの場合には、奇怪なキャラクターや造形物が画面に登場すると、登場人物の興奮と一体化してカメラも喜びに打ち震えるように輝きを増す。残念ながら『オズ』にそういう瞬間は訪れなかった。充分に面白い映画だとは思うけれど、やはりこういうジャンルは監督に向き不向きがあるのだろうなあと思う。その辺マーチ自身も自覚があったのだろうか、監督作品は本作のみである。


 ドロシー役のファルーザ・バークほか、キャストはほとんど馴染みのない顔ぶれ。ドロシーのおじさん役でマット・クラーク(70年代の西部劇でよく見る顔)、おばさん役でパイパー・ローリーデ・パルマ『キャリー』の母親)が出演している。


 ちなみに、本作はディズニー提供のファミリー映画にも関わらず、何故かまだDVD化されていない。アルトマンの『ポパイ』もそうだけど、何か大人の事情があるのだろうか。