Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『無限の歓喜』(今野雄二)


 昨年亡くなった今野雄二先生の音楽評論集『無限の歓喜読む。ミュージック・マガジン誌に掲載された評論と、アルバムのライナーノーツ等を集めたもので、書かれた年代は1974年から2009年まで長きに渡る。帯にはデヴィッド・バーンの献辞が載っている。


 トーキング・ヘッズ、ブライアン・フェリー、デヴィッド・ボウィ、ルー・リード、プリンスらは分かるとして、意外だったのはクラッシュについて書かれた文章だった。今野先生とクラッシュというのはイメージできなかったなあ。82年に来日したクラッシュのステージ、バックステージの様子などが詳細に記されており、ジョー・ストラマー(彼ももう故人か)をはじめとするメンバーの人となりが生き生きと描かれた名文であった。


 特に興味深かったのは『音楽&映画評論を評論する』という一文であった。「映画は、何よりも映像の動き」「音楽もまた、まずリズムであり、次にハーモニーやメロディーであるべき」であり、言葉による意味付けで評価されてしまう風潮は間違っているのではないか、という至極まっとうな主張が展開される。今野先生の映画/音楽に対する姿勢は全てここに要約されているといってもいいだろう。


 本書で紹介されたアルバム全てを聴いている訳ではないし、今野先生の評論全てに同意する訳ではないけれど、やはり独自の審美眼と文体を持った信頼できる評論家であったと改めてそう思う。今度は映画評論集が読みたいなあ。亡くなるまで連載していたミュージック・マガジン誌の映画原稿をまとめて出版して欲しいと切に願う。是非ともまた「ブライアン・ディ・パーマ」というあの表記と、愛情のこもった文章を読みたい。


 さておき、またひとつ歳をとってしまった。昨年もそうだったけれど、一瞬自分がいったい何歳になったのか分からず、真剣に悩んでしまった。2011年から生まれた年を引き算して、ああ、そうか、と。今年はあれこれ盛り沢山過ぎて、3年分くらい一気に歳をとったような気がするなあ。