Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『或るろくでなしの死』(平山夢明)

或るろくでなしの死

或るろくでなしの死


 今年の読書は平山夢明氏の新刊『或るろくでなしの死』からスタート。短編集なので、1日1話ずつ一週間かけてゆっくり楽しもう・・・と思って読み始めたのだが、ぐいぐい引き込まれて思わず一気読みしてしまった。


 ホラー慣れしたすれっからしをも驚かす奇想と残酷描写に溢れた平山氏の作風は、時に鬼畜系などと称される。しかし彼の作品における奇想は奇想の為の奇想ではなく、どんな暴力も暴力の為の暴力には終わらない。ハッタリかまして人を驚かしてやろうとか不快にさせてやろうとかいう浅はかなものではないのだ。グイッと一瞬で真理を鷲掴みにするような剛腕と詩情溢れる繊細な筆致を併せ持つ優れた作家であると思う。


 今回は「或るはぐれ者の死」「或る嫌われ者の死」「或るごくつぶしの死」「或る愛情の死」「或るろくでなしの死」「或る英雄の死」「或るからっぽの死」とタイトル通り様々な死の様相を描いた七編の短編が収録されている。ラストの一文が強烈な「或るごくつぶしの死」、夫婦の軋轢がなにやら他人事と思えない「或る愛情の死」、平山流ハードコア版『レオン』「或るろくでなしの死」も良いけれど、本作のハイライトは「或るからっぽの死」であろう。見よ、この孤独の描出を。見よ、この優しさを。号泣必死の名篇だ。これを読む為だけに本書を買っても損はない。


 それにしても、新刊が楽しみな作家がいるという事の何と嬉しいことか。