- 作者: ドナルド・E.ウェストレイク,Donald E. Westlake,木村二郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/05
- メディア: 文庫
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ドナルド・E・ウェストレイク『鉤』The Hook(2000年)読了。
スランプに陥ったベストセラー作家が、売れない作家に「君の小説を俺の名前で出版しよう」と持ち掛ける。報酬は山分け、しかしその提案には「離婚係争中の妻を殺害して欲しい」という条件があった・・・というお話。ウェストレイクの作品としては持ち前のユーモアは押さえ目で、先に読んだ『斧』同様に、ゾッとするようなダークな肌触りの小説でありました。
「フックの効いた音楽」とか「フックの効いたストーリー」という言い方がありますが、原題の「鉤」とは凶器の事ではなくて、そういった意味でのHookです。
殺人を持ち掛ける男の狂気を、引き受ける男の狂気があっさりと乗り越えてしまう辺りがとても面白い。狂気っていっても実に淡々とした日常のレベルに落とし込んで描いており、残虐な行為をした後でも登場人物たちが極めて普通に振舞っているあたりが怖いです。また、ウェストレイクの勝手知ったる出版業界の裏話、作家稼業の苦労も描きこまれていて説得力がありました。片やスランプを乗り越えようとして、片や商業的な成功を夢見て、作品と作家の名前を交換します。そのことで、二人とも結果的に小説家としてのプライドやオリジナリティ、そして魂をも殺してしまうのです。そういった意味では、『鉤』はミステリーの定番ネタである「交換殺人」ものの変奏なのかもしれません。