Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アンティシペイション』(クリストファー・プリースト・編)

アンティシペイション (サンリオSF文庫)

アンティシペイション (サンリオSF文庫)


 『サンリオSF文庫総解説』の影響でサンリオSF文庫を読みたくなって、市内の図書館の蔵書を検索してみました。『総解説』で最も興味を惹かれたディッシュ『キャンプ・コンセントレーション』、オールディス『世界Aの報告書』、ワトスン『マーシャン・インカ』『ヨナ・キット』は残念ながら無かったけど、いろいろと出てきましたよ。サンリオSF文庫廃刊後に他社から復刊されたものも合わせると、結構な数が図書館でチェックできることが分かりました。これは楽しみ。


 という訳で、まずはクリストファー・プリースト編纂のアンソロジー『アンティシペイション』Anticipations(1978年)読んでみました。タイトルは「予測、予感、期待」といった意味。参加メンバーはプリースト以下、T・M・ディッシュ、J・G・バラード、ブライアン・W・オールディスらそうそうたる顔ぶれです。


 収録作品は全8編。タイムマシンというSFジャンルならではの装置の意義を突き詰めてゆく『超低速時間移行機』(イアン・ワトソン)、透視が出来る望遠鏡を描くショート・ショート(と呼びたい)『隣は何をする人ぞ』(ロバート・シェクリイ)、大型の捕食生物が潜む惑星探査に赴いた男女のすれ違いを描く『闘技場』(ボブ・ショウ)、国境警備に就く若き兵士と作家の対話を描く『拒絶』(クリストファー・プリースト)、エネルギー危機の未来で某国に潜入したスパイの運命を描く『美しき青き島』(ハリイ・ハリソン)、不死の男女とその愛人の葛藤を描く『老いゆくもの』(T・M・ディッシュ)、休暇旅行中の夫婦の危機を描く『ユタ・ビーチの午後』(J・G・バラード)、そして中篇『中国的世界観』(ブライアン・W・オールディス)。収録された作品の作風はバラバラで、純然たるSFとは呼べない作品も多く、あまり統一感のあるアンソロジーとは思えませんが、作家たちの個性は充分に楽しめました。個人的には、やはりバラードやプリーストの作風にしっくりくるものを感じました。アンソロジーのテーマ的にも、SFというジャンル的にも、最も忠実で意欲的なのはイアン・ワトソンの『超低速時間移行機』だと思います。


 仕事帰りの電車の中で読書をすることが多いのですが、昨年の後半はドナルド・E・ウェストレイクを中心に海外のミステリー小説を読んでいました。ページを開くとすぐに小説の世界に入り込むことができて、気分転換になりました。ところが今回の『アンティシペイション』は、どうも仕事明けに読むには向いていないというか、仕事で疲れ切ったアタマでは、非日常的な文章と内容にすんなりと入り込むことが出来ないのでありました。大げさに言えば、二駅区間ぐらいは何を書いているのかなかなか理解できないでつっかえながら読んでいるというか。でも、一度その世界に入り込んでしまえば意識の覚醒具合は半端なく、もう何時間でも読んでいられる気がしました。さて、次は何を読もうかな。