恐怖の詩学 ジョン・カーペンター―人間は悪魔にも聖人にもなるんだ (映画作家が自身を語る)
- 作者: ジルブーランジェ,Gilles Boulenger,井上正昭
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2004/11/01
- メディア: 単行本
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フィルムアート社の「映画作家が自身を語る」シリーズ、『恐怖の詩学 ジョン・カーペンター ―人間は悪魔にも聖人にもなるんだ―』読了。我らがジョン・カーペンター監督が、自らの半生、自主制作時代から『ゴースト・オブ・マーズ』に至る自作、映画製作に対する思いを熱く語ったインタビュー集です。カーペンターのファンなら、否映画好きならきっと楽しめるに違いない一冊です。
ジョン・カーペンターといえば、SF/ホラー/アクションのジャンルにおいて知らぬ者の無い偉大な監督です。フィルモグラフィー(監督作のみ)を振り返ってみると、
『ダーク・スター』(1974年)
『要塞警察』(1976年)
『ハロウィン』(1978年)
『ザ・シンガー(TVM)』(1978年)
『ザ・フォッグ』(1980年)
『ニューヨーク1997』(1981年)
『遊星からの物体X』(1982年)
『クリスティーン』(1983年)
『スターマン/愛・宇宙はるかに』(1984年)
『ゴースト・ハンターズ』(1986年)
『パラダイム』(1987年)
『ゼイリブ』(1988年)
『透明人間』(1992年)
『ボディ・バッグス(TVM)』(1993年)
『マウス・オブ・マッドネス』(1994年)
『光る眼』(1995年)
『エスケープ・フロム・L.A.』(1996年)
『ヴァンパイア/最期の聖戦』(1998年)
『ゴースト・オブ・マーズ』(2001年)
『世界の終り(TVM)』(2005年)
『グッバイベイビー(TVM)』(2006年)
『ザ・ウォード/監禁病棟』(2010年)
見よ、この個性的な作品群を。どの作品もあり得ないくらいシンプルで力強くて、後続の映画やゲーム等に多大な影響を与えた作品ばかりですね。本書のインタビューは2001年の『ゴースト・オブ・マーズ』までですが、それ以降も、TVシリーズ『マスターズ・オブ・ホラー』における『世界の終り』(傑作!)、初期作品に回帰したかのようなコンパクトな快作『ザ・ウォード/監禁病棟』等、精力的に活動を続けています。個人的には、中学時代にTVで『ニューヨーク1997』を見て以来、ずっと追いかけている監督です。フィルモグラフィーをチェックすると、未見なのはエルヴィス・プレスリーの伝記映画『ザ・シンガー』(1978年)だけでした。カーペンターのフィルモグラフィーの中では異色の『ザ・シンガー』ですが、名コンビのカート・ラッセルと出会った記念作でもありますので、いつか見てみたいと思っています。
個人的には、カーペンターはホラー映画の監督というよりは、アクション映画の監督という印象があります。その作品はアクション映画、とりわけ西部劇がベースとなっているのが一見して分かります。本書のインタビューでは、ハワード・ホークスからの影響を繰り返し語っていました。(カーペンターは1948年生まれ、初期作品でホークスへのオマージュをさかんに行っていたスピルバーグが1946年生まれですから、ホークスの作品がこの世代へ与えたインパクトの大きさがうかがえます) ホラー映画と西部劇のミクスチャーである『ヴァンパイア/最期の聖戦』や『ゴースト・オブ・マーズ』は正にカーペンターならではの作品だと思います。ホラー系の作品では『遊星からの物体X』と『マウス・オブ・マッドネス』が好きですねえ。他には『ゴースト・ハンターズ』なんていう珍品もあって気が抜けません。
本書のインタビューでは興味深いエピソードが沢山語られています。今やカルト・クラシックとなった『物体X』ですが、公開当時興行的には大失敗で、仕事を干されそうになったと語ります。コケた理由は、ズバリ「スピルバーグの『E.T.』と公開時期がバッティングしてしまったから」。時代は友好的な宇宙人ブームになり、誰も陰鬱な『物体X』には見向きもしなかったという訳です。次回作の『クリスティーン』(スティーヴン・キング原作)は仕事が欲しかったから引き受けただけの、思い入れの無い雇われ仕事だったそうです。その次の『スターマン/愛・宇宙はるかに』ではカーペンターも友好的な宇宙人を描いてヒットを飛ばし、リベンジを果たします。
カーペンターといえば自作の音楽を担当することでも知られています。『要塞警察』や『ハロウィン』、『ニューヨーク1997』等の音楽はすぐに口ずさめるくらい印象的ですね。自らが演奏場面も披露した『ゴースト・ハンターズ』のMTVも愉快でした。カーペンターと音楽といえば気になるのが『物体X』。巨匠エンニオ・モリコーネを音楽に迎えておきながら、その曲はシンセの重い反復音が続くというどう聴いてもカーペンター・サウンドでした。インタビューではそこを突っ込まれて、その他の場面ではちゃんとモリコーネの曲を使っていると語っていますが、まるで記憶に無い・・・。ちなみにこの件は、モリコーネ先生のインタビュー本『エンニオ・モリコーネ、自身を語る』でもインタビュアーが躊躇いがちに聞いていて笑えました。自分はカーペンターもモリコーネ先生もどちらも大好きなので、2人が一緒に仕事をしていると考えるだけで楽しいですね。セルジオ・レオーネの話とかしただろうなあ。
そして、カーペンターの最新情報は映画ではなくて音楽の話でした。何と!2015年2月3日、ファースト・アルバム『Lost Themes』をリリース!これはぜひ聴いてみたいですね。
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