Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『人間の手がまだ触れない』(ロバート・シェクリィ)

人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫SF)

人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫SF)


 ロバート・シェクリィの短編集『人間の手がまだ触れない』Untouched by Human Hands(1954年)読了。これぞSFショート・ショート、という作品が並ぶ楽しい短編集でした。何だか懐かしい感じがするなあと思ったら、解説によると創刊当時の『SFマガジン』にシェクリィ作品が紹介されたことから、シェクリィの作風は我が国のSF作家に多大な影響を与えているのだそうです。手違いで食料を積み忘れた宇宙船の腹ペコ乗組員が、ある惑星に着陸して食料を探すが・・・という表題作『人間の手がまだ触れない』に代表されるように、ブラックユーモアを基調とした奇想天外な話を乾いたタッチでスピーディーに描いています。


 特に好きだったのは『専門職』『時間に挟まれた男』『静かなる水のほとり』の三篇でした。様々な専門を受け持つ人々が集まって構成された宇宙船(頭脳となる人々、目となる人々、原子炉となる人々、外壁となる人々・・・)の推進役が死亡し、ワープ航行が出来なくなってしまった。やむを得ず近くの惑星(地球)から推進役を務められる人材をスカウトするが・・・という『専門職』。時空にできた割れ目に挟まれてしまった男(階段を降りると原始時代に、階段を上がると未来の世界へ出てしまう)の悪戦苦闘を描く『時間に挟まれた男』。辺境の惑星で単身生活する鉱山労働者とロボットの交流を描く『静かなる水のほとり』は泣けたなあ。


 本書に収録された短編『七番目の犠牲者』は、何故かイタリアで映画化されています。『華麗なる殺人』(1965年)がそれで、監督はエリオ・ペトリ、主演はマルチェロ・マストロヤンニウルスラ・アンドレス。合法化された殺人ゲーム「ハント」に臨む主人公(マルチェロ・マストロヤンニ)と、CMスポンサー付で優勝を目指すアメリカ女(ウルスラ・アンドレス)の対決がポップな映像で描かれていました。ラウンジ調の音楽(ピエロ・ピッチオーニ)、すっとぼけたマストロヤンニの怪演、アンドレスのお色気(死語)、ルパン三世を実写化したらこんな具合かと思わせる楽しい映画でありました。この映画をシェクリイ自身がノベライズした長編小説『標的ナンバー10』(1965年)というのもあるそうです。


華麗なる殺人 [DVD]

華麗なる殺人 [DVD]


 シェクリイと映画といえばもう1本。長編『不死販売株式会社』(1959年)を映画化したのが『フリー・ジャック』(1992年)。これ、新宿の映画館で見たなあ。監督はジョフ・マーフィ。出演はエミリオ・エステベスミック・ジャガーアンソニー・ホプキンスレネ・ルッソ。未来といってもすごい未来ではなく、近未来ということで町の風景はほとんどそのままで、ちょっとだけ未来カーが走ってたりするという懐かしのSF映画風の仕上がりでした。


不死販売株式会社―フリージャック (ハヤカワ文庫SF)

不死販売株式会社―フリージャック (ハヤカワ文庫SF)